10月下旬の夜、大阪市内南部の一般道に続々と警察車両が集結しはじめた。
すでに白黒パトカーが1台臨場していたが、乗り捨てられた不審車両の搬送のために、それとは別に複数の警察車両が駆けつけたのだ。所轄署刑事課や本部の覆面パトカー、方面隊のパトカー2台、さらには存在感バツグンの大きなカンガルーバーを備えたランドクルーザープラドの覆面パトカー……、警察車両の数は10台近い規模となっていた。不審車両移送のためにしては、大げさすぎるこの布陣。普段ならあり得ないことだが、ここまでの物々しさにはワケがあった。実は、この1週間前に発生した「警察車列襲撃」というトンデモ事件が背景あったようなのだ。警察が「証拠品を奪われるという」先の事件を受け、二度と失態は起こさないという決意の表れだったともいえる。その鉄壁の布陣を、現場に居合わせた筆者がリポートする。
文・写真/有村拓真
【画像ギャラリー】不審車搬送! 厳重すぎる警察の車列をチェックする(9枚)画像ギャラリー■前代未聞の強奪事件発生! 犯人グループの動きは?
2021年10月21日夜、レッカー移動中の警察の車列が襲われるという仰天の事件が起きた。その詳細はこうだ。
とある車上荒らし事件に関与したとみられる手配中の車両を、警察が大阪市阿倍野区の駐車場で発見し押収、そこから約6キロ先の大阪市東成区にある東成警察署を目指し、レッカー車の前後を警察車両で固めて移送していた。その途中、阿倍野区内に架かる片側2車線の天王寺バイパスを走行していたその時、事件は起きた。
犯行グループの車両3台が後方から現れ、警察の車列が襲撃されたのだ。
1台はパトカーとレッカー車の間に強引に割り込もうとしたが、断念しそのまま逃走、直後に2人組が乗った車両が速度の落ちたレッカー車に近づき、助手席の人物が証拠車両内から積載物を奪い取った。一旦は助手席に戻り、クルマでの逃走を図ったが、レッカー車が進路を塞いだため、クルマを諦め走って逃走、運転手はパトカーや一般車などに接触を繰り返した挙句車両を乗り捨て、中央分離帯を乗り越えて逃走している。
なお最後尾に位置していた1台はバイパスをバックのまま猛スピードで逃げ去っている。まるで海外の事件のような前代未聞の犯行であった。
その異常なまでの犯行から衝動性はなく、計画的な犯行とみられている。容疑者のうち1人は11月12日に逮捕されたが、依然として男2人が指名手配されている状況だ。
実は、この事件が発生する以前の同年9月1日未明には、大阪府岸和田市内で盗難車を警察署へ搬送中に車内からカバンが持ち去られる事件が起きている。この時は警察車両の警備はなかったというが、警察は今回の事件との関連を捜査している。
■襲撃に備えプラド遊撃車を投入
そして前代未聞の事件から1週間後の10月28日、先の事件現場に近い大阪市内南部でまたも事件が発生した。同日夕刻、不審車両が駐車場の壁面などに衝突しながら蛇行運転を繰り返した挙句、クルマを乗り捨てて逃走するという内容だった。
衝突現場から乗り捨てられた現場は1キロ弱の距離である。当初は飲酒運転の末の逃走かと思われたが、警察官が車内検索を行ったところ、窃盗で使用する工具類が出たのであろうか、所轄警察署の刑事課の臨場に加えて、府警本部の捜査員も臨場した。そして一方面機動警ら隊(警視庁などの自動車警ら隊に相当)の車両が3台臨場したが、その中にランドクルーザープラドの地域遊撃車がいたのだ。
臨場したランドクルーザープラドは元々要人を警護する警護車として2005年初旬に国費で配備され、一部の道府県で活躍している車両である。
大阪では逃走車両がパトカーにぶつけて逃走を図る事案が2015年頃から急増したため、2017年3月に引退予定であった同車を方面隊に転用している。警護車の時代に取り付けられていたオートカバーは外され、社外品の大型カンガルーバーが装着されている。なお、赤色灯は警護車の反転灯を引き続き使用しており、サンバイザーにはフラットビームと呼ばれる点滅灯を装備している。
同車は地域遊撃車という名称で日夜大阪の街をパトロールしている。余談だが、同じように逃走阻止を想定して愛知県警察自動車警ら隊に導入されていた日産サファリのパトカーが2台いたが、こちらは現役を退いている。
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