メルセデスW13は過激なエアロシェイプでグランプリデビューした。風洞実験通りであれば、かなりのダウンフォース発生するW13は、ライバルたちよりも1秒は速いだろうと思われていた。しかし、実際はポーポシングが酷く、強力なダウンフォースを得ることができず苦戦している。さて今後問題点を解決して速さを取り戻すことができるのか、元F1メカニックの津川哲夫氏が検証する。
文/津川哲夫
写真/Ferrari,Mercedes,Redbull
メルセデスW13は過激なエアロシェイプでグランプリデビューした
V6ハイブリッドターボPU時代に突入した2014年以来、コンストラクターズチャンピオン8連勝のメルセデス。ドライバーズも21年にレッドブルに敗れはしたが、それまで7連勝を続けており、絶対王者の強さを誇示してきた。
2022年はこれまでのレギュレーションが大幅に変更され、全く新しいF1に生まれ変わった。白紙からのスタートは開発に各種のトライを生み、チーム毎に個性的なアプローチが行われ、観る者を大いに楽しませてくれている。さらに接近戦をにらんだ新しい技術と競技規則は予想以上に効果を発揮し、毎レース手に汗握る接戦が展開されてきた。
しかし、今シーズンのメルセデスW13は過激なエアロシェイプでグランプリにデビュー。これまで常識的に採用されてきたモノコックの両側に飛び出したサイドポッドをW13では削り落としてしまった……と言うよりも横に幅広く飛び出すサイドポッドを思い切りコックピット側に寄せ、モノコックに貼り付けた様な形で通常のサイドポッドを無くしてしまった。一見ポッドレスに見えるこのスタイルを一般的には“ゼロポッド”等と言われている。
車高変化を最小限に抑え、常にダウンフォースを安定させるコンセプトのW13
ゼロポッドの考え方は後方エアロの効率向上とドラッグ軽減などが考えられる。長年メルセデス・エアロは床下のエアロの安定を重視して、車高変化を最小限に抑え、エアースピードに応じたダウンフォースを常に安定させるコンセプトで開発されてきた。そしてエアロバランスのセッティングは前後のウイング等エアロ付加物での調整で行われてきた。
全く新しい規則では床下の形状にベンチュリーフロアが採用され、これまでのステップボトム型のフラットフロアとは大きく違う特性とダウンフォースを産み出す仕様になり、エアロバランスもエアロ特性も大きく変わっている。また18インチタイヤの採用も少なからずエアロ制御に影響を与えている。
多くのチームはこの変化に伴い独自の解決策を考え、22年仕様には昨年までのエアロとは全く違うコンセプトでアプローチをしてきた。しかしW13では見た目のボディワークこそ過激なエアロにみえるものの、相変わらずライドハイトの大きな変化を嫌うエアロを踏襲し、サスペンションジオメトリーも昨年型から大きくは変わらずに、車高変化を強く抑える形式を続けている。
しかしレッドブルを頂点に、フェラーリも、アストンマーティンも、アルファロメオやハース、アルピーヌにいたるまで多かれ少なかれ、サスペンションの動きを姿勢制御に組み込み、エアロバランスの制御でフレキシブルに行われている様に見える。
対するW13ではリアサスペンションで僅かにスコート(リアの加速時沈み込み)が採用はされているが、フロントサスペンションは他チームと較べてダイブ(減速時沈み込み)はほんの僅かでしかなく、事実上沈み込まないサスペンション構成になっている。これでは低い車高と稼働幅の狭いライドハイトで発生するポーポシングの対処は難しいはずだ。
高いライドハイトに設定すれば、ポーポシングには対処できてもダウンフォースの絶対量を失って安定性も欠くことになり、またタイヤの摩耗にも悪影響を及ぼす。他チームはポーポシング対策で、ライドハイトを上げてダウンフォースが減っても前後のエアロバランスを制御することでダメージを最小限に抑えている。
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