ホンダ・シビックが50周年だ、という。そうか、50年も経ったのか、という感慨とともにホンダにとってだけでなく、シビックという一台のクルマがもたらした世界に轟いた衝撃を思い起こしたりした。
「モーレツからビューティフルへ」というキャッチとともに、それまで速さばかりを追い求めていた世の中が、少し変化した。
特に「エス」や「エヌ」で、ホンダは若者にとってアイドルのようなブランドだった。モーレツの最先端をいっていたホンダが、1973年にいち早く「低公害エンジン」ホンダCVCCを開発し、世界からの注目を浴びたのだ。
「排出ガス規制」などが嵐のように吹き荒れていた1970年代に、技術力で生き残ろうと軽やかに身を翻した。当時の多くのホンダ・ファンは、少なからず驚き少し落胆もしたものだ。
といいつつ、今回採り上げるのはホンダにとってシビックの前モデル、というべきホンダ1300シリーズ。モーレツ時代の掉尾を告げたモデル、知れば知るほどシビックとは対極にあるようなサルーン/クーペである。どうシビックへの転換を図ったのか、とても興味あるところだ。
文、写真/いのうえ・こーいち
■ホンダ1300とは?
もう知っている人さえ少ないかもしれない。1969年から1970年代前半に掛けて販売されていたホンダの小型サルーン。少し遅れてクーペも追加されている。
空冷エンジン横置き搭載の前輪駆動で、例によってホンダならでは、の創意工夫が込められている。特許、実用新案合わせて178件がボディ内外にちりばめられている、と独創性をアピールしたものだ。
発表は1968年10月の第15回東京モーター・ショウ。謳い文句は「2000ccのパワー、1500ccの居住性、1000ccの経済性」という、かなり挑戦的なもの。つまり、最強ヴァージョンは1.3L、115PSだったから、2Lに換算したらじつに175PS超。
ホイールベース2250mmのボディは、コンパクトなエンジンの前輪駆動を採用したこともあって、ひとクラス上の室内スペースを実現した。経済性の中には燃費だけでなく、「1PSが5740円、最高速度は1万円で3.04km/h」などと高性能低価格を主張した。そのコピーもホンダらしい、などと話題になったものだ。
そんな注目のなか、ようやく1969年5月に発売される。ショウで飾られてから半年以上かかったのは、じっさいの生産までに手間取る、いつものホンダらしいといわれたりした。
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