前走車にピッタリくっついて追走することによって、空気抵抗を減らして省エネ走行をする「スリップストリーム」。F1などの自動車レースや自転車レースなどで利用されるテクニックですが、一般のクルマでも利用すれば、燃費の低減につながるはず。
スリップストリームを一般車の高速走行で行った場合、どういった条件でどの程度の燃費低減効果が得られるのでしょうか。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:Adobe Stock_wesel
写真:HONDA、Adobe Stock、写真AC
先行車の負圧を利用した走法
走行中のクルマの周囲では、空気がサイドミラーやタイヤなどの車体の凹凸部にあたって剥離することで、渦が生成されます。これによって、空気と車体表面に圧力変化や摩擦力が発生して、進行を妨げる方向の空気抵抗が発生します。
また、車体後部には後流渦が発生します。クルマの上部を通過する流れが、クルマの下部と路面の間を通過する流れよりも多いため、クルマの後部に渦が発生してその領域が負圧になります。車体後部の空気の圧力が下がるとクルマを後方に引っ張る力として働くので、これも空気抵抗になります。実は、クルマの空気抵抗は、車両前側よりも車両後ろ側の処理の下の方が、空力に大きく影響しているのです。
空気抵抗は車速の2乗に比例するので、車速が上がるほど指数関数的に増大します。クルマのスタイリングは、低速域ではそれほど燃費に影響を与えませんが、80km/h以上の高速になると大きな影響を与えるのは、そのためです。また、流線形のスポーツカーでは、後流渦の生成が少なく、ボックス型のファミリカーは生成しやすくなります。
自車にとっては空気抵抗となる後流渦ですが、後続車はこの渦による負圧を利用できます。後続車が、負圧領域まで接近すれば、後続車には負圧によって先行車に吸い込まれる力が働き、空気抵抗を減らした省エネ走行ができるのです。これが、スリップストリームと呼ばれる走法です。
できる限り高速で大型車に接近して追走すると効果的
F1やインディカーなどの高速レースでは、1mを切るようなギリギリの車間距離で追走して、余力を残しながら走行を続け、タイミングを見計らって一気に追い抜くシーンをよく見かけます。これが、スリップストリームを利用した代表的な例です。
自転車レースも同じで、先頭車の後ろに連なって走行し、最後の最後で一気に加速して勝負します。後ろについて空気抵抗を避ける走法が絶対的に有利なのです。また、スケートのパシュートの場合は、3人が接触しそうなくらいの間隔で縦列を組んで2列目と3列目の選手が余力をもって走行し、空気抵抗を受けやすい先頭の選手を入れ替えながら、より早いタイムが出るように走行します。これらも、スリップストリームを上手く利用した走法です。スリップストリームを効率的に利用するためには、次のような条件が効果的です。
・クルマの後部に発生する負圧は、車体後部表面に近いほど高いので、できるだけ接近して追走
・後流渦は高速ほど発生しやすいため、高速での追走
・前面投影面積(クルマを前から見たときの面積)が大きいトラックのような大型車の追走
・空気抵抗の少ない流線形のスポーツカーよりも、ボックス型のファミリカーの追走
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