戦勝国であるアメリカには、第二次大戦時に活躍した戦闘機や爆撃機が、今も飛行可能な状態で保存されている。その多くは80年前に製造されたままの機体だが、日本軍機やドイツ軍機など、実機が現存しない場合は新造されることもある。
ここで紹介する「零戦三二型」は、そうした新造機のひとつだ。ただし、ホンモノの残骸から部材が再生されるので、その構造や寸法、フォルムは、限りなく実機に近い。また、機体の再生作業と並行して、この零戦に搭載予定の「栄二一型発動機」のオーバーホール作業も、日本人レストア職人によって進められている。
今回はこの零戦三二型と栄二一型の取材レポートをご紹介したい。
文/鈴木喜生 写真/佐藤雄一、藤森篤
【画像ギャラリー】もうすぐ飛ぶかも!? 「栄発動機」レストア作業をもっと見る(7枚)画像ギャラリーリバース・エンジニアリングで再生される「零戦三二型」
米国ワシントン州で現在、「零戦三二型」の再生作業が行われている。飛行可能な零戦三二型を蘇らせる計画だ。これまでにオリジナルの五二型、ロシアで新造された二二型、ノースダコタで再生された二一型などが戦後の空を飛んでいるが、三二型が新造されるのは初めてだ。
レジェンド・フライヤー社によるこの復元作業では、リバース・エンジニアリングという技法が駆使されている。マーシャル諸島のタロア島で回収された4機分の零戦の残骸から、その構造を徹底的に検証し、パーツ寸法を実測して、オリジナルを忠実に再現した部材を新造することで、現在の航空法に則した零戦三二型を生み出すのだ。
2001年に始まったこのプロジェクトは、すでに最終章を迎えている。機体は完成し、エンジンが搭載され、あとは初フライトを待つばかりだ。
この零戦三二型には当初、同じくレストアされた「栄二一型発動機」が搭載されるはずだった。しかし、それを計画した前オーナーの逝去や、現オーナーへの機体の移管などの諸事情により、実際には米国のライト社製のR-1830ツインワスプが搭載されることになった。
多額な資金と長大な時間をもって再生される機体を飛ばすには、信頼性と耐久性に優れ、スペアパーツも豊富にある同基が適当だと判断されたのだろう。R-1830は栄二一型とほぼ同サイズなので、零戦の外観を変えることなく、本来の勇姿をそのまま再現することができる。
しかし、栄二一型発動機の再生作業が完全停止したわけではない。カリフォルニア州にある大戦機のエンジンを専門としたレストア工房では、栄二一型に再び火を入れるための基礎作業がすでに完了している。機体の現オーナーの判断によっては、作業はすぐにでも再開される可能性があるのだ。そのGOサインを待つのは、ひとりの日本人レストア職人である。
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