栄二一型を蘇らせる日本人レストア職人
大戦機のエンジンのレストアを専門に行う工房「ヴィンテージV12’s」は、カリフォルニア州北部のテハチャピという小さな町にある。西部劇を連想させるような荒涼としたこの土地にこの工房がある理由は、巨大な航空用エンジンの試運転のためだ。
排気量27~50リッターのエンジンを、テストベンチに載せて試運転する際には、マフラーが装着されないこともある。ときには夜間に試運転を行い、エクゾースト・ポートから吐き出される炎によって、各気筒の燃焼バランスを診ることもあるという。そうした爆音をともなう作業のためには、このテハチャピが最適な土地なのだ。
この工房に所属されているのが佐藤雄一氏。ホンダレーシング(HRC)のオートバイ・メカニックを経て2008年に渡米。現在はこの工房で航空機用レシプロエンジンの再生作業に取り組まれている。ヴィンテージ・エンジンを飛行可能な状態に蘇らせる「唯一の日本人レストア職人」だ。
筆者がこの工房を訪れた時、佐藤氏は栄二一型の再生に着手されていた。80年前に製造されたそのエンジンは全バラ状態にあり、固着した油はすっかり洗浄され、各パーツは新品のように輝いていた。
「今は破損した部位の修理、欠損部品の確認、不足部品の調達を試みています」
佐藤氏は、我々が初めて目にするホンモノの栄のパーツ類を丁寧に解説してくれたが、その解説は彼が執筆した近著に掲載されている。この記事サイトの【画像ギャラリー】に、そのディテール写真と、佐藤氏による解説をご紹介したい(文・写真/佐藤雄一著「傑作戦闘機とレシプロエンジン」より)。
いつかは零戦三二型とともに大空へ
この栄二一型の再生に臨んで佐藤氏は、以下のように説明してくれた。
「発電機、スターター、真空ポンプ、キャブレターなどのオリジナルパーツは、欠損しているか、使用不可能なことが多いんです。しかも日本軍機のエンジンは、そのほとんどは終戦時に焼却、破棄されているので、スペアパーツの入手はとても困難。そうした場合には、米国製の他のエンジンから流用します」
こうした交換作業の結果、この栄二一型のオーバーホール後のオリジナル度は70%前後になるだろうと、佐藤氏は予想する。ただし、「この栄二一型の他の主なパーツは非常に良い状態を保っているため、レストア作業が完了すれば、素晴らしい仕上がりになるはずです」と、この現存基に対する期待も大きい。
完成間近の零戦三二型は、現時点ではライト社製のR-1830が搭載されているが、よりオリジナル度を高めるために、現在のオーナーが将来、この栄二一型の搭載を望む可能性は低くない。
「この栄に新たな生命を吹き込んで、勇壮な爆音とともに大空を翔ける零戦三二型の姿が近い将来に見られることを、私は確信しています」
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