ホンダの誇るスーパースポーツNSX。1990年登場の初代はアイルトン・セナも開発に参加するなどそのストーリーはいまでも語り草になるほどの名車だ。
いっぽうで、2016年に登場した2代目NSXは初代のような胸が高鳴る感覚がかなり薄い。4WDにハイブリッドで乗りやすく、実際にNSXの名に恥じない速さを誇るのだが、なにかが「そそらない」。
2018年8月にマイナーチェンジを発表するもあまり盛り上がらず。その原因はなんなのか? スーパーカーに詳しい清水草一さんが迫ります。
文:清水草一/写真:ベストカー編集部
■初代は時代にも恵まれたクルマだった
ホンダがNSXのマイナーチェンジを発表したが、クルマ好きの間では、あまり話題になっていない。
マイチェンの内容は、空力パフォーマンスを高める新しいエアロパーツの採用、スタビライザーバーをフロント26%、リア19%剛性アップ、トーリンクブッシュの剛性を21%、リアハブの剛性を6%向上。
スポーツハイブリッドシステム「SH-AWD」、アクティブ磁気ダンパー、電動パワーステアリング、VSAのセッティングをアップデート。
これらの見直しによって、限界時のハンドリング性能や日常での快適性を向上し、鈴鹿サーキットでラップタイムを約2秒短縮したとのことだ。
また、フロントグリルのメッキ部がブラックになり、新色ボディカラー「サーマルオレンジパール」も設定された。
内容を見ると、今回のマイチェンはいたってまともなものだ。こうした努力がないと、商品力を維持することはできないわけだが、これでNSXの魅力がアップするかと言えば、否だろう。
現行NSXに対する我々の熱量は、なぜこれほど低いのだろうか?
第一に言えるのは、初代NSX登場時の熱量があまりにも高すぎたので、それと比較するとどうにもならない、ということだ。
初代NSXが出たのは1990年。すでに日経平均株価は下落を始めていたが、バブル崩壊に気づいていた日本人はほとんどおらず、空前の好景気が続いていると思われていた。
そんな時代に、日本初のスーパーカーが登場したのだ。しかも、世界初のオールアルミボディを引っさげて。なにしろ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と、日本人が自らに酔っていた時代。
フェラーリやポルシェなんてのは故障ばかりするポンコツで、性能だって本当は大したことはない、国産スポーツが世界一! と、みんな本気で信じていた。実際その通りだったとも言えますし。
初代NSXの発表当初の価格は800万円(ATは60万円高)。今思うと驚くほど安い。1990年当時の日本人の平均年収は425万円で、現在とほとんど同じ。しかも98年までは、上昇カーブを描いていた。
収入が増える中、800万円で日本初のスーパーカーが買えるとなれば、多くの人が「欲しい!」と思って当然ではないか?
なにしろ当時は、日本人のだれもがクルマに熱狂していた。実際、この頃NSXで東京の街中を走っていると、ほぼ全員が振り返り、走って追いかける人までいたくらいだ。
これは、みんな欲しがっているという熱狂状態の中、ひょっとしたら自分も買えるかも、手が届くかもと、これまたみんなが思っていたからだ。一種の集団心理ですね。今じゃ想像もできませんが。
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