■収入は増えずNSXは4倍の価格になった
対する現行NSXはというと、まず価格が2370万円。初代の約4倍だ。日本人の平均年収はこの28年間でほとんど増えず、むしろ減っているくらいだから、ハードルは4倍も高くなった。
フツーの日本人には到底買えない。つまり自分とは関係ない。周囲にも熱狂はない。速く走ったって誰も喜んでくれないし、逆に危ない、怖いと嫌われる。
あの頃とは時代が変わってしまった。醒めるのも当然だ。ところで、なぜNSXはこれほど値上がりしたのか。
初代は国内生産だったが、現行はアメリカからの逆輸入になったからという面も多少あるが、それは本質ではない。
実は、日本以外の先進国にとっては、NSXは特に高くはなっていないのだ。
この28年間で、アメリカ人の平均年収は約2.5倍になっている。富める者はますます富み、貧富の差が広がっているので、スーパーカーが買える層の年収は、おそらく4倍以上になっている。
NSXの値段が4倍になっても、価格据え置きみたいなもの!
この28年間、先進国の中で日本だけがデフレで苦しみ、平均年収が上がるどころか下がってしまったので、相対的にNSXがメチャメチャ値上がりしたように感じるだけなのである。
NSXだけでなく、フェラーリやランボルギーニなど、値段がバカ高いスーパーカーへの日本人の熱狂は、すべてダダ下がりしている。
販売台数は増え続けているが、興味を持つのはお金持ちだけで、庶民とはまったく無関係なものになった。最大の理由は、日本人が相対的に貧乏になったことにある。
そういう意味で、現行NSXに罪はない。誰しも、もうちょっとで手が届きそうな夢には燃えるが、頑張っても到底ムリな夢には、トライする気も起きないのだ。
■熱狂が低いのは経済的事情だけではない
ただ、現行NSXに対する熱狂は、海外でもあまり高くはない。
初代が出たときは、海外の専門家も称賛した。特にレーシングドライバーは絶賛していた。当時はフェラーリもポルシェもクセが強く、速く走らせるには特殊技能が必要だった。
初代NSXのようなマトモな操縦性を持つスーパーカーは他になかった。NSXは革命児であり、フェラーリのクルマ作りにも大きな影響を与えた。
しかし時代は変わった。現在、世界のスーパーカーは、どれもこれもマトモな操縦性どころか、UFOのように曲がって加速はウルトラスーパー速い。
NSXも同様のダイナミクスを狙って開発され、見事に実現しているが、それは決して飛び抜けたものではなく、スーパーカーの平均値にすぎない。デザインに関してはそれこそ……。いや、これは言わないでおこう。
しかも現在のホンダのブランドイメージは、まったくもって高くない。過去のF1での栄光はあるものの、現在はあのていたらくだし、今はもう普通の大衆車メーカーに過ぎないのだ。
そんなメーカーが、フェラーリやポルシェと同じくらいの性能のスーパーカーを開発したところで、熱狂が生まれるはずがないじゃないか。
それでももちろん、ないよりはあったほうがいい。スーパーカーはもはや宝飾品のような存在。
そういう意味では現行NSXの市場価値は高くはないが、しかし日本のメーカーが、少なくとも世界トップクラスの性能を持つクルマを開発・生産できるということを見せるのは、悪いことのはずがない。
ただそれは、我々日本人にとっても海外のクルマ好きにとっても、あまり魅力的ではないというだけのことだ。
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