軽自動車のN-BOX、コンパクトカーのノートやアクア、小型ミニバンのシエンタ……。今、日本で売れている車を上から順に見ていくと、小さな車が目立つ。日本車が徐々に大型化するなかで、“海外向けの大きな日本車”も増えたが、その多くが日本のユーザーから支持を得られず、伸び悩む。
大きい車がそう簡単に売れないという事実は、「俺たちが求めているのは日本に合った適度なサイズの車なんだ!」という“本音”の裏返しでもあるのだろう。
そんななか、大きくても売れている日本車といえば、トヨタのアルファード/ヴェルファイアだ。1年で車が最も売れる3月の販売台数はアルファードが7000台、ヴェルファイアも5000台超。シリーズ合計で1万2000台超という台数は、ホンダ フィットとほぼ同数。価格も考えれば圧倒的な数値だ。
アルファードほどではないが、マツダの大型SUV、CX-8や人気が低迷するセダンのカムリも堅調な売れ行きを維持している。どれも全長4.9mを超えるこの3車は「大きくても売れるだけの理由」をそれぞれに秘めている。
文:御堀直嗣
写真:編集部
セダンを凌駕するアルファード/ヴェルファイアの快適性と存在感
富の象徴という概念が、変化してきていることを、トヨタのアルファード/ヴェルファイアは示しているのではないか。その発端は、米国市場による。
ミニバンのみならずSUVを含め、米国でVIPと位置付けられる人々が、それまでのストレッチリムジンからミニバンやSUVに乗り換える傾向が起こった。
例えば、実際にキャデラックなどのストレッチリムジンに乗ると、天井が低く、室内は必ずしも充分なゆとりがあるわけではない。それに対し、ミニバンは天井が高く、体を屈ませずに乗車できるし、当然ながら室内は広々としている。
ことに、アルファード/ヴェルファイアでは、いち早く2列目の座席をやや内側へ寄せることにより、前後スライド量を多くとれるようにし、2列目乗員の足元の広さを一層拡大する仕組みを採り入れた。さらには、3ナンバーミニバンでありながら乗車定員が4名という、ロイヤルラウンジと呼ばれる車種も誕生させている。
ミニバンは、本来は3列シートによって多人数乗車でき、なおかつ座席を折りたためば荷物もたくさん載せられる実用性優先のクルマだった。米国でも、大柄なミニバンに求められた商品性は、そうした実用性にあったと言える。しかし、ストレッチリムジンからミニバンへという流れが起きた。
背景を探ると、上記のような後席の乗る人の快適性が優れることが発見され、なおかつ、ストレッチリムジンに比べ背が高いので存在が目立つ。存在感という視点で言えば、アルファードもヴェルファイアも、その顔つきは大きなメッキグリルによっていかめしい。
そして、周囲へ威圧感を与える。一般庶民とは異なる収入や地位にあることを一目瞭然に周囲へ知らしめることができるのである。
かつてのストレッチリムジンは、ミニバンほど室内が広くない上に、長い車体を都市部で走らせるには苦労するし、止める場所にも制約が生じる。その点、ミニバンであれば、都市で自由に走れるし、通常の駐車場でこと足りる。
快適性と、存在感、そして都市部での利便性を総合的に見れば、ストレッチリムジンではなく上級ミニバンを選ぶ理由が見えてくる。
それでも、なぜトヨタのアルファード/ヴェルファイアが、他のメーカーに比べ圧倒的な販売を実現しているかには、ハイブリッド車の存在を忘れることはできないだろう。
社会的地位が高い人であれば、自らの業績のみではなく、社会貢献と言った視点での環境への配慮も世に示す必要がある。大きな上級ミニバンで威張っても、排ガスや燃費で社会に悪影響を及ぼす存在であることは嫌がられるに違いない。
そうした社会性への敏感な配慮を、2003年のハイブリッド車追加でトヨタは示してきた。対して、たとえばエルグランドには今なおハイブリッド車が無い。
コメント
コメントの使い方