エンジンかけたら複雑骨折!? 登場から130年でクルマを便利にした技術10選

エンジンかけたら複雑骨折!? 登場から130年でクルマを便利にした技術10選

 現代のクルマは快適だ。ボタン一つでエンジンがかかるし、面倒くさいシフトチェンジもいらない。しかしこんな便利な存在となるには、130年以上に及ぶ先人の絶え間ない努力と工夫が必要だった。そこで今回は自動車技術に詳しい御堀直嗣氏に、現代のクルマを作ったすごい技術を10件、選んでもらった。

文/御堀直嗣、写真/GM、メルセデス・ベンツ、スバル、VW、Adobestock、ベストカーWeb編集部

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その1:大仕事だった「エンジン始動」を解消したスターターモーター

クルマが便利で快適になったのはコイツのおかげ! 130年の間に生まれたすごい自動車技術10選
T型フォード。フロントラジエーターの下にクランクを回すレバーが付いている(OYO@Adobestock)

 そもそもエンジンを始動させるには、当初、人力に頼っていた。クランク棒と呼ばれるものを、車体前方からエンジンのクランク軸に差し入れ、それを手で回わしてエンジンを始動させていた。これが20世紀初頭まで続く。

 人力を使わずにエンジンを始動させたいと考える人はいたが、今日のように電気を使いモーターで回転力を与え、エンジンをかける仕組みを考案したのは、米国のチャールズ・ケッタリングだった。この機構は、発明王として知られたトーマス・エジソンも賞賛したと伝えられる。

 最初にスターターモーターを採用したのは、1912年のキャデラックであった。画期的だったのはいうまでもないが、それから2年後には世界の9割の新車がスターターモーターを採用していたとのことで、どれほど人々が待ち望んでいたかがうかがえる。

その2:エンジン>クラッチ>変速機とつなぐFRレイアウト

クルマが便利で快適になったのはコイツのおかげ! 130年の間に生まれたすごい自動車技術10選
マツダ・ロードスター。エンジン>クラッチ>変速機を縦に繋いだ見事なFRプロポーション

 今日のガソリンエンジン車の原点は、1886年に誕生したカール・ベンツのパテント・モトール・ヴァーゲンだ。当時のクルマの姿は、時代の影響を受け、馬車の機構を基にし、座席の下や後ろ側にエンジンを搭載していた。

 そこから、エンジン>クラッチ>変速機という、フロントエンジン・リアドライブ(FR)の動力伝達の構成を考えたのは、フランスのエミール・ルヴァッソールだ。客室の前にエンジンを搭載する今日のクルマの原型が生まれたのである。

 FR方式は、車体を低くすることにもつながり、それまで馬と変わらぬ速さだったクルマを、それ以上の速さへ誘うきっかけにもなった。

その3:軽いクルマの実現に貢献したモノコックボディ

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モノコックボディの例。スバル・レヴォーグのフルインナーフレーム

 乗用車の車体構造で一般的なのが、モノコックと呼ばれる形態だ。これは箱のように組み立てた外板で力を受け止める構造である。

 それに対し、かつての乗用車や、現代でもバスやトラックなどは、土台となるフレーム構造を持ち、その上に荷台や客室などを載せる作り方をしている。モノコックでも、いわゆる外観の造形にあたるところは構造部でなく、その内側に、箱状の立体的な骨格がある。モノコックとすることにより、薄い板を組み合わせ、軽くて強い車体をつくることができる。この発想は、航空機からきた。空を飛ぶには軽さが必要だからだ。

 一方、トラックやバスは、輸送業者や観光業者などの都合で、荷台や客室の自由度が求められる。そこで、走行に必要なエンジンや変速機、サスペンションや燃料タンクなどはフレームに取り付け、荷台や客室は別構造として載せる方法が現在でも使われている。

その4:スムーズにカーブを曲がれるアッカーマン・ジャントー機構

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クルマの前輪は内側のほうが外側よりも少しだけ大きく切れる。そのおかげでクルマはスムーズに曲がれるのだ(xiaosan@Adobestock)

 ガソリンエンジン車の発明として知られるベンツのパテント・モトール・ヴァーゲンは、前輪が1輪の3輪車だった。いまでは4輪がクルマとしては当たり前の姿で、パテント・モトール・ヴァーゲンは、クルマには見えにくい。

 前輪を1輪にした理由は、ハンドル操作をした際、左右のタイヤで回転半径が異なるのに対処する仕組みがまだ考えつかなかったからだ。クルマがカーブを曲がるとき、内輪と外輪では回転半径が異なる。つまり、タイヤの操舵角度が違う。しかし、ハンドル操作は一つだ。

 この矛盾を解決したのが、アッカーマン・ジャントーという機構だ。これを考え付いたベンツは、2台目のクルマを4輪にしている。普段なにげなく操作しているハンドルにも、裏には考え抜かれた機構が潜んでいる。

その5:エンジンの「ごきげんとり」を不要にした燃料噴射装置

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吸気ポートに燃料を吹き付けるインジェクター。このおかげでエンジンは各段に扱いやすくなった(sima@Adobestock)

 ガソリンと空気を適切に混合し、エンジンに存分の力を発揮させる基になるのは、キャブレターという気化器だ。空気の流れる勢いにあわせ、適切なガソリンを噴霧し、混合気をつくる。

 それに代わる機構が、燃料噴射装置(フューエル・インジェクション)である。こちらは、エンジン内に吸い込まれる空気量に合わせ、適切な燃料を強制的に筒(シリンダー)内へ噴射する。燃料噴射によって馬力が上がるのはもちろん、排出ガス規制や、燃費向上も意図的に改良できるようになった。

 燃料噴射は航空機で採用され、次いでクルマでも利用されだした。1954年のメルセデス・ベンツ300SLからである。それでも、すぐには普及せず、70年以降の排出ガス規制に適応させるため電子制御による燃料噴射がはじまり、今日ではすべての内燃機関車が採用する。

 一方、キャブレターは空気の流れ方のみならず、気温や気圧の違いによって燃料混合の様子は左右され、エンジンの様子をうかがいながらアクセル操作をする必要があった。それはあたかも、馬の機嫌を探りながらの乗馬に近い感覚だった。

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