ミニバンの利点といえば、何といっても多人数乗車や多くの荷物が搭載できることだろう。そしてシートレイアウトなども売りとなるが、コンパクトミニバンの場合、スペースの制限が厳しいために工夫が必要となる。
その中でも3列シート採用モデルとなると、3列目をどこに収めるかが大変だ。今回は、びっくりのからくりで3列目シートを収納するトヨタ シエンタの仕組みを解説しよう。
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、TOYOTA、HONDA
■ミニバンの「見せ場」は3列目の格納方法!?
ミニバンには3列のシートが装着され、乗車定員は6~8名とされる。そして3列目のシートを格納すると、広い荷室として活用できる。1/2列目のシートに4~5名で乗車して、自転車のような大きな荷物を積めるミニバンも多い。
注目されるのは3列目の格納方法だ。大半の車種が左右に跳ね上げる方式を採用する。格納の仕方がシンプルで、片側だけ跳ね上げることも可能だから、乗車人数と荷物の量に応じてレイアウトを調節しやすい。
この3列目の格納方法で注目されるのが、新型になったシエンタだ。3列目を2列目の下側に収めるから、格納されたシートが荷室へ張り出さない。しかも路面からリヤゲート開口部までの高さも505mmと低く、荷物の出し入れをしやすい。
シエンタの3列目を2列目の下側へ格納できるのは、薄型燃料タンクの効果だ。燃料タンクを薄く造ったから、2列目の下側に空間ができて、3列目の格納も可能になった。
そしてシエンタの薄型燃料タンクは、2003年に発売された初代モデルから採用されている。この開発の背景には、当時のホンダのミニバンに対するトヨタの強烈なライバル意識があった。
■ライバルを研究し刺客を送り込むトヨタ
2010年頃までのトヨタは、国内で好調に売られるライバル車を徹底的にマークした。
2000年にホンダが初代ストリームを発売して人気を得ると、トヨタは2003年にほぼ同じサイズの初代ウィッシュを投入して、販売合戦で勝利した。日産が1997年に初代エルグランドを発売して売れ行きを伸ばすと、トヨタは初代アルファードを開発して、2代目エルグランドの翌日に発売した。
この流れでホンダが2001年に投入したコンパクトミニバンのモビリオも、トヨタからマークされた。
モビリオは同年に発売された初代フィットと同様、燃料タンクを前席の下に搭載して、荷室の床を低く抑えていた。そのためにモビリオでは、3列目に座っても床と座面の間隔が十分に確保され、無理のない姿勢を取ることができた。
全長が4055mmと短く、車内が広々とした印象は受けなかったが、全長が約4mのボディながら大人の多人数乗車も可能だった。
このモビリオを倒すための「刺客」として開発されたのが初代シエンタだ。モビリオが燃料タンクを前席の下に設置して、3列目の床を低く抑えたから、初代シエンタは薄型燃料タンクを開発して同様の効果を得ている。
そしてモビリオは、低床設計を生かして、3列目シートを2列目の下側に格納できた。その代わり3列目を格納する時は、2列目を一度持ち上げて3列目を畳み、その後で2列目を元に戻す手間を必要とした。
そこで初代シエンタは、対抗手段として3列目を小さく薄手に造り、2列目の下側に片手で格納できるようにした。キャッチフレーズは「片手でポン」であった。モビリオの3列目は座り心地、対抗するシエンタは格納のしやすさに重点を置いたわけだ。
モビリオは前席の下に燃料タンクを設置したことで、空間効率が抜群だったから、その後も同様のレイアウトを採用すると思われた。
ところが2008年に後継車種として発売された初代(先代)フリードは、燃料タンクをボディの後部に搭載する一般的な設計に変わった。この影響で、初代フリードの3列目は、モビリオに比べて膝の持ち上がる着座姿勢になっている。
初代フリードの全長は4215mmだ。仮にこの全長で、燃料タンクを前席の下に搭載するモビリオの方法を踏襲していたら、初代フリードの居住性は3列目を筆頭にさらに快適になったに違いない。
そこで開発者に、初代フリードの燃料タンクを一般的な設置方法に変えた理由を尋ねると、「燃料タンクを前席の下に搭載すると、1列目の中央部分が持ち上がって車内の移動がしにくいため」と返答された。
それでもモビリオの1列目の中央を見ると、床が極端に高いわけではない。燃料タンクの搭載方法を変更した理由は、いまひとつ理解しにくかった。
コメント
コメントの使い方フリードが2023年にフルモデルチェンジって言い切っているけど、まだ情報出ていないよね?
まあそれはさておき、新型フリードは、ステップワゴンのようなマジックシートになったら、かなり魅力的になると思う。