車の“顔”でもあるフロントグリルの大型化が、ここ最近一大トレンドとなっている。
アウディなどの輸入車やアルファードなどの上級ミニバンはもちろん、軽自動車まで含めて存在感のある大型グリルを持つ車が飛躍的に増加。ひと昔前には考えられなかったほど、車のフロント部全体に対して、フロントグリルが占める面積は明らかに拡大している。
そもそもフロントグリルは、エンジンやラジエーターに空気を送り込み冷却を図るという機能がある実用部品だが、ここまで大型化するメリットは果たしてあるのだろうか? そして、その背景にあるメーカーの思惑とは?
文:御堀直嗣/写真:編集部
大型グリルの端緒と各社の思惑
アウディ A6の3代目が、「シングルフレームグリル」と呼ばれる大きなラジエターグリルを採用して以降、クルマの顔つきはグリルが大きく口を開けたような造形が世界的に流行りだした。また、日本では“ドヤ顔”などともいわれる、メッキやクロームの大型フロントグリルが、軽自動車をはじめ大型ミニバンまで広く人気を呼んでいる。
そうした傾向の一番の理由は、目立たせたいという自動車メーカーの思惑だろう。それによって、商品性を高める狙いがある。
しかし、それは一つの造形の行き詰まりではないかと思う。
かつて、クルマの造形は多彩であり、輪郭にも特徴があって、遠目に見ても車種を見分けることができた。ところが、デジタル技術の進展と、コンピュータ上での設計や造形の検討が主体となるに従い、クルマの輪郭はほぼどれも同じとなった。なぜか?
技術の進化で変わった“格好良い車”の定義
以前のクルマの“格好いい姿”とは、動物など自然界からの手掛かりを基に、人が想像して創られてきた。たとえば「流線形」という言葉がある。野生の動物や鳥、魚などが速く駈ける(また、飛ぶ、泳ぐ)姿から、クルマもそれをなぞった輪郭が描かれた。それは同じ動物である人間の目にも親しみがあり、また優雅にさえ思える姿となった。
だが、コンピュータ上で車体周りの空気の流れをシミュレーションできるようになると、空気抵抗を減らし、より速く、あるいはもっと燃費をよくする形は、自然界とは別にあることが分かってきた。
例えば、鳥や魚を例にするとわかりやすい。鳥は空を、魚は水中を、飛んだり泳いだりする。そこで抵抗となる空気や水は、鳥や魚の周りを覆っている。
それに対し、クルマは空気中を疾走するけれども、それは地面すれすれであり、地面と車体との隙間が少なく、そこに地上効果と呼ばれる独特の空気の流れが起こる。クルマの周りにある空気は、ある一定の安定した状態にあるのではなく、地上効果による別の空気の流れの影響も受け車体の上と下で異なるのである。
その状態でより空気抵抗を減らし、速度や燃費を追求するには、野生の動物などとは違った形が必要になる。それが、今日のクルマの輪郭を形作っている。
では、野生の動物はどうかといえば、クルマほど地上すれすれの高さで駈けているわけではない。であるから、速く駈ける動物は昔ながらの流線形の優美な姿をしているといえる。
今日、大きなフロントグリルを見ずにクルマの輪郭を眺めると、見分けがつかないはずだ。だから、各自動車メーカーは差別化のためにグリルを大きくするしか策が無いといえるのではないだろうか。
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