2023年2月12日、東京都港区青山のホンダ東京本社一階にある「ウェルカムプラザ」にて、先日引退を発表したプロ車いすテニスプレーヤー国枝慎吾選手がトークイベントを開催した。3台続けてオデッセイに乗っている、という国枝選手に、ホンダとの関係や競技に関する想いを伺った。
文、写真/ベストカーWeb編集部
■「自分の成長を楽しんで、実感できること」
パラリンピックで5大会連続メダル獲得(うち金メダル4個)、グランドスラムシングルス32勝(シングルスでは年間グランドスラム(3冠)計5回達成し、ダブルスではキャリアグランドスラムと4大会連続優勝)、車いすテニス界のレジェンドである国枝慎吾選手が、2023年1月、世界ランキング1位のまま引退を発表した。
2009年に国内初となるプロ車いすプレーヤーへ転向し、翌2010年からホンダとスポンサー契約を結び、以来12年間、ホンダは国枝選手とともに歩んできた。
「ホンダさんとは本当に長くお世話になっています。2007年に『情熱大陸』に出演した際、オデッセイ(の福祉車両)に乗っているところが映っていて、たぶんそれをホンダの偉い人が見てくれたんだろうなぁと(笑)」
快活で歯切れよく、時折ジョークを交えて話す国枝選手のトークに、ウェルカムプラザに集まった約70名の観客は大いに沸いていた。
印象的な話が数多く飛び出したが、本企画担当が特に面白いと感じたのは、「テニスを選んだのはたまたまだった」という話と、「世界一になれると思っていたかどうか」という話。
まず国枝選手がテニスを始めたキッカケは、「たまたま家から30分のところに、車いすテニスもやっているスクールがあったことから」とのこと。そ、そんなことで世界一のプレーヤーが生まれるのでしょうか…?
「それまで野球をやっていて、プロ野球選手になりたかった。けれど(9歳で脊髄腫瘍による下半身麻痺のため)車いす生活となって、それでも何かスポーツをやりたいと思って、そのときに車いすバスケをやるためのスクールは家から1時間半かかったんです。だからテニスにした」
とのこと。
「皆さんと一緒なんですよ。スポーツをやりたい、そういう気持ちで始めた。毎週やっていると、先週の自分より上手くなっていることがわかって、それがうれしくて続けられました。スポーツって結局そういうことなんだと思います。自分との付き合い方なんですね。成長を楽しんで、実感できることが大事なんだと思います」
スポーツにしても勉強にしても仕事についても、向いているかいないか、才能があるかないか、凡人か天才か、そういうことばかり考えてしまう。けれど実際に世界一のスポーツプレイヤーに聞くと、出会った競技はたまたまで、重要なのは「自分との付き合い方」であると。
二点目は、かつてホンダがF1に挑戦する際、創業者である本田宗一郎氏が語った言葉、「世の中にいいものを作っていると認めてもらうためには、世界一にならないといけないんだ」にまつわる話。
上記に関連して、司会者から「国枝選手はどのようにして世界と戦う決意を固めたのですか」という質問に対して、メンタルトレーナーから「ナンバーワンになる、と断言しましょう、と言われたんです」というエピソードを披露してくれた。
それは2006年頃、国枝選手がまだ世界ランキング10位くらいだった際(その時点ですごいが)、アン・クイーンという世界的メンタルトレーナーに「ぼくはナンバーワンになれるだろうか」と相談したとのこと。
すると「なれるか、ではなく、なるんだ、と言ってみてはどうだろう」と提案されたそう。
テニスはメンタル状況がプレーに強く影響を及ぼすスポーツだ。サーブを打つ前は調子がいいときでもふと「ダブルフォルトになるかもしいれない」という考えが頭をよぎるという。そんなときに、ラケットに貼った「俺は最強だ!」という一言が目に入ると、それまで何度も鏡に向かって「俺は最強だ!」と唱えた自分が頭を占めるという。これは「セルフトーク」という技術だとのこと。
スポーツは競技中も重要だけど、成長できるかどうかを決定的にわけるのは、競技している以外の時間をどうすごすかが重要だという。なるほどたしかに。
繰り返しになるが、スポーツだけでなく勉強や仕事にも大変参考になるお話でした。
コメント
コメントの使い方オデッセイの復活が決まったけど、福祉車両もラインナップしてくれるんだろうか…