「サンキューハザード」って本当に必要? 警察・JAF・メーカー取説で見る「本来の使い方」と感謝の正解

「サンキューハザード」って本当に必要? 警察・JAF・メーカー取説で見る「本来の使い方」と感謝の正解

 高速道路の合流や車線変更などで前列を譲ってもらったとき、ハザードをチカチカっと2~3回。「サンキューハザード」は日本の道路で広く定着した慣習だ。やらないと「お礼もできないのか」と苛立つドライバーもいれば、「本来の使い方じゃないだろ」と眉をひそめる人もいる。では実際のところ、サンキューハザードは「やったほうがいい」のか「やらないほうがいい」のか。警察庁の教則、JAF・自工会の安全啓発資料、トヨタ・日産・マツダ・ホンダの取扱説明書――これら「一次情報」から「公式」の答えを出した。

文:ベストカーWeb編集部、画像:AdobeStock

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そもそもハザードランプは何のためにあるのか

 まず大前提を確認しておきたい。ハザードランプの正式名称は「非常点滅表示灯」。名前からしてすでに「非常時」の装備だ。

そもそもの話として「ハザードランプ」のスイッチの場所がメーカーごと、車種ごとに大きく異なっているの、ヤバくないか。レンタカーなどで一瞬「どこにあったっけ」と迷うことがあって危ないのだが……
そもそもの話として「ハザードランプ」のスイッチの場所がメーカーごと、車種ごとに大きく異なっているの、ヤバくないか。レンタカーなどで一瞬「どこにあったっけ」と迷うことがあって危ないのだが……

 トヨタはアクアの取扱説明書で「事故などでやむを得ず路上駐車する場合、他車に知らせるために使用してください」と記載している。マツダも「故障などでやむをえず路上駐車するときや、非常時に使用します」と説明する。日産に至っては「故障などでやむを得ず路上駐車するときや、非常時に使います」としたうえで、「高速走行時は緊急事態で他車に危険が及ぶような場合以外は使わないでください」とまで書いている。

 つまり各メーカーの説明はかなり一貫していて、ハザードの用途は「故障・事故・非常時に後続車や周囲へ危険を知らせること」。感謝を伝えるための装備としては、少なくとも取扱説明書上は位置づけられていない。

警察庁の「教則」にサンキューハザードは出てこない

 次に見るべきは、警察庁が発行する「交通の方法に関する教則」だ。この教則では運転時の合図が整理されており、進路変更・右左折には方向指示器、徐行や停止にはブレーキ灯、後退には後退灯を使うこととされている。

 重要なのは、教則に「必要がないのに合図をしてはいけません」と明記されている点だ。ハザードは教則上、あくまで「非常点滅表示灯」であり、「ありがとう」を意味する正式な合図としては登場しない。

 同様に、警音器(クラクション)についても「危険を避けるためやむを得ない場合」などを除いて鳴らしてはいけないとされている。つまり、クラクションで「サンキュー」を伝えることも、教則の考え方とは合致しない。

 日本の公道で正式に認められた「感謝の合図」は、教則上は存在しないのだ。

JAF・警察・自工会が推奨するハザードの使い方

 では、公的機関はハザードをどう使うべきだと説明しているのか。

 JAFは高速道路での事故・故障時の対処として、「ハザードを点灯→路肩に寄せる→停止表示器材を設置→車外に避難→通報」という流れを案内している。警察庁も同様に、高速道路での逆走時や故障・事故時にはハザードを点灯して停止し、停止表示板等を設置のうえ避難するよう示している。自工会(JAMA)の安全啓発ページでも、やむを得ず路肩に停車する場合にハザードで後続車に合図すると説明している。

 さらに京都府警は「高速道路安全運転10箇条」で、「渋滞後尾ではハザードランプを点滅させて後方に注意」と明記している。

 公的機関がハッキリ推奨しているハザードの使い方は、「感謝」ではなく「追突防止の警告」なのである。

【見落としがちな事実】ハザード点滅中、ウインカーは作動しない

 ここで、サンキューハザードを日常的に使っている人にぜひ知ってほしい事実がある。

 日産は取扱説明書のなかで「ハザード点滅中は方向指示器が作動しない」と案内している。これは実務上、かなり大きい。

 たとえば車線変更で道を譲ってもらった直後を想像してほしい。「ありがとう」のつもりでハザードを点けた数秒間、次の車線変更や分岐に備えたウインカーが出せなくなる。合流直後、高速の出口手前、交差点の連続する都市部――サンキューハザードが次の「正式な合図」と干渉するリスクは、思っている以上に高いのだ。

「お礼のつもりが、次の安全確認を遅らせていた」。これはサンキューハザード問題の核心と言っていい。

メーカーの安全装備もハザードを『危険信号』として使っている

 近年のクルマには、ハザードランプの点滅パターンを安全装備として活用する機能が搭載されている。

 ホンダは高速走行中に急ブレーキをかけた際、左右ランプが同時点滅して後続車に急減速を知らせると説明している。日産も急ブレーキ時にハザードを自動高速点滅させる「エマージェンシーストップシグナル」を採用している。

 つまり、メーカーの技術開発において、ハザードの光そのものが「異常・危険・急減速」を意味する方向に進化している。ここに「ありがとう」の意味を重ねると、文脈次第で後続車が感謝なのか危険なのか判断に迷う余地が生まれる。

 特に夜間や雨天時、視界が限られる状況では、ハザードの点滅がどちらの意図なのか瞬時に判断しにくいことは容易に想像できるだろう。

結局、サンキューハザードは「やるべき」か「やめるべき」か

 一次情報を積み上げた結論はシンプルだ。

「無理にやらなくていい。むしろ安全を乱さないことのほうが圧倒的に大事」――これが、警察庁の教則、各メーカーの取扱説明書、JAF・自工会の安全資料から導ける答えである。

 サンキューハザードは日本の道路上で定着した慣習ではある。しかし、JAF・警察庁・自工会・メーカーのいずれも、これを「正式な感謝の合図」としては位置づけていない。ハザードの本来用途は、あくまでも故障・事故・緊急停止・渋滞最後尾などで、後続車や周囲に危険や異常を知らせることだ。

 ただし、慣習として使う人を全否定するのも現実的ではない。JAFの会員向けアンケートでは「サンキューハザードしている派」は85.6%にのぼった。普通のドライバーはみんなやっているし、やられて「嫌だ」とも思っていないことがわかる。「文化」として定着していることは認めるべきだろう。

 だからこそ、もし使うとしたら、安全確認が完了していること、次の進路変更や分岐と重ならないこと、ごく短い時間に限ること――この3つの条件をクリアしたうえでやればいいのだろう。

渋滞時にわざわざ前をあけて入れてくれたクルマに「ありがとうございます」と伝えたい気持ちはよくわかる。こういう丁寧さは日本人の美徳とも言える
渋滞時にわざわざ前をあけて入れてくれたクルマに「ありがとうございます」と伝えたい気持ちはよくわかる。こういう丁寧さは日本人の美徳とも言える

本当に上手いドライバーの「感謝の示し方」とは

 では「運転中の他車への感謝」はどう伝えればいいのか。

 警察庁は「思いやり・ゆずり合いの運転」を繰り返し求めている。自工会(JAMA)は良いドライバーの条件として「他者との良好なコミュニケーション」を挙げている。JAFは狭路ですれ違う場面で「相手の合図を見過ごさず、どちらかが止まることで接触リスクを減らせる」と説明している。

 これらの一次情報から導ける「本当の感謝の示し方」は、実はとても地味だ。

 早めのウインカーで意思を明確にすること。無理のないスムーズな合流をすること。一定速度を維持して後続車を不安にさせないこと。不要な急ブレーキをしないこと。狭路では相手の意思表示をしっかり読んで、スマートに譲り合うこと。

 つまり「感謝は点滅ではなく、相手を不安にさせない運転で示す」。一次情報を素直に読めば、これが最も筋の通った答えだ。

 高速道路で本当に大事なのは、「ありがとう」の2~3回点滅ではなく、渋滞最後尾で追突を防ぐためのハザードだ。警察庁もJAFも京都府警も、その重要性を繰り返し説いている。感謝の気持ちは大切だが、それよりも大切なのは、自分も相手も安全に目的地へたどり着くことではないだろうか。

 なお完全に余談だが、本企画担当者はかつて大流行した「ブレーキランプ」を5回点滅させて「アイシテルのサイン」と歌ったラブソングが好きだった。学生時代に憧れたし大変ロマンチックだと今でも思うが、ブレーキランプの点滅はハザードランプの点滅よりさらに危険(しかも「いつも」やってる!)なので、ドライバー諸賢はくれぐれもやらないようご注意ください。「アイシテル」は言葉で伝えましょう。

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