スバルといえば、独創的な技術や起伏に富んだ歴史を持つメーカーで、昔から固定ファンが存在していることでも有名だ。そんなマニアウケするスバルなのに、2023年現在、軽自動車はすべてダイハツのOEM車になってしまっている。
そこで今回は、スバルが過去に販売してきた同ブランドオリジナルの名作軽自動車について取り上げる。各車はそれぞれの時代にどんな影響を与えてきたか、その魅力や偉大さを、スバル大好きライターのマリオ高野がマニアックに語り尽くす!
文/マリオ高野
写真/スバル
■半世紀にわたって通用した基本レイアウト
スバルが軽自動車の自社開発と生産の終了を発表してから、はや15年が経った。スバルファンの心情的には、残念といえば残念だが経営の実情や他社との関係を考えれば仕方ない面もある。スバルに一生ついていくと決めた以上、ここはスバル社の方針を信じて、また新たなオリジナル軽の誕生を待つしかない。
そういうわけで、本稿では過去に登場してきたスバルオリジナルの軽自動車がどれだけ偉大だったかを紹介したい。特に、スバルファンなら絶対に知っておきたいモデルである「サンバー」、「スバル360」、「R1」の3車種をピックアップして、その魅力を解説していこうではないか。
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【サンバー】
スバルオリジナルの軽自動車が群馬県太田市の工場で最後にラインオフされたのは、2012年2月29日。生産の最後を締めくくったのはサンバーだった。
サンバーは1961年にデビューした初代モデルから、2012年の最終モデルまで、基本レイアウトをほとんど変えることなく360万台以上生産され、スバルが生産した軽自動車の4割以上をしめている。サンバーは、スバルオリジナルの軽自動車のなかで最も長く、数多く作られたモデルとして記録にも記憶にも残る名車になった。
サンバーを名車たらしめた要因は、RR(リアエンジン・リアドライブ)レイアウト、フルキャブオーバー、四輪独立懸架サス、ハシゴ型フレームの4つの要素が挙げられる。
RRの採用はサンバーより前に生まれたスバル360での実績があったとはいえ、流用部品の多い派生車種ではなく、商用貨物車として全面新設計されている。貨物車でありながら、設計時に重視したのは積載性や運搬性能ばかりでない。後回しにされがちな快適性や安全性、操縦性などクルマとしての基本性能はほかのスバル車と同じ思想、同じ基準で開発されている。
初代サンバーの開発指揮をとったのは、スバル黎明期の偉人として崇められる百瀬晋六氏で、サンバーも「百瀬イズム」の結晶のひとつだ。RRの採用は、先に生まれたスバル360との生産互換性もあったが、スバル360で実証された登坂性能や駆動力の高さは商用貨物車にも最適とされての採用であり、効率性やコスト重視の発想からではない。
キャブオーバーについては、まったく迷わずに採用されたという。当時の他銘のボンネット式トラックは積載性能が低く、先行する競合車に対抗するには積載性の高いキャブオーバーが不可欠だった。
ボンネットのないキャブオーバーの難点である前面衝突時の安全性に対しては、フロントまわりの外板を特に強化して対応。キャブオーバーならではの視界のよさや操縦性を高め、そもそも事故を起こしにくいクルマとなるよう設計された。今でもスバルがアピールする「0次安全」の意識は、この時代からすでに非常に高かったのである。
RRレイアウトは荷台の前部から中央部分をギリギリまで低くできるので、FRやMRでは実現不可能な低床荷台が生み出せた。
ハシゴ型フレーム構造の採用は大きな荷重への対応と荷台の低床化を狙ったもので、フレームは中空角材による箱型断面式とし、軽くて極めて剛性の高い構造を実現。乗用車作りの前に手がけたバスの車体設計や流体力学を応用したスバル360のボディ作りで得た知見がサンバーでも活かされたという。さらに元をたどれば航空機作りの発想で、サンバーにも航空機メーカーのDNAが受け継がれたと言える。
サンバーの美点はバンでも広く重宝されたが、バンよりもさらに過酷な状況で使われがちなトラックでもおおいに真価を発揮した。開発時にこだわって採用したキャブオーバーならではの荷台の広さは圧倒的で、サイド開きの低床式であるため重い荷物の積み降ろし性に優れる。
さらにフラットな荷台は長尺物の運搬にも便利とされ、しかも上下2段に使える工夫を凝らしたことにより、積荷スペースは当時の軽貨物車のなかで最大とされた。
荷台のガードレールを倒せば側方と後方の2方向から荷物の積みおろしが容易にできる点も大好評。サンバーの実用性の高さはたちまち評判となり、大企業から零細な自営業者まで幅広く、当時の日本のさまざまなビジネスシーンで大活躍。軽トラック市場で3割以上のシェアを誇った。そういう意味では、日本のモータリゼーションの発展に、本当の意味で大きく貢献したのは、乗用のスバル360ではなく、軽貨物のサンバーだったともいえる。
また、RRはそれ以外のレイアウトの軽バン/トラックと異なり、フル積載時も空荷の時も車体の姿勢が傾きにくい点で好評だった。常に同じ乗り心地が得られ、フル積載時に加速をしても車体が後傾しないのでライトの光軸もズレない。総じて軽トラック/バンでも走行中の疲労が少なく、乗用車同様の快適なドライブが楽めることも強みとなっている。
四輪独立懸架サスによる接地性とRRならではのトラクションの高さは、50年以上にわたりサンバーの大きな強みとして輝く。サンバーに乗ると、ほかの軽トラック/バンでは得られないサスペンションストローク量の豊かさを感じるが、これは路面追従性の高さと四輪接地荷重が均一であるために得られる感覚だ。
当時の乗用車と同じ形式のサスペンション採用により乗り心地がよく、積荷を傷めにくいことでも重宝された。「悪路を走っても豆腐の角が崩れない」話などが口コミで広まり、食料品など壊れやすい物を運ぶ業者にとってはなくてはならない存在となる。
さまざまな業種で使われることにより、荷室の使い勝手や機能に対する要望やクレームも多岐にわたり、それらにしっかり耳を傾けながら地道に改善する姿勢も高く評価された。
使い勝手がいい上に乗り心地がよく、しかも静粛性が高いことからレジャー用途でも重宝。ミニバンやRV車の先駆け的な存在にもなった。サンバーをベースに3列シートミニバンに仕立てたドミンゴは、スイスなど海外でも高い評価を得られたのは、サンバーの基本性能の高さゆえである。
1998年からの軽自動車の新規格に合わせてフルモデルチェンジした6世代目モデルが最後のスバル オリジナルサンバーだった。もちろん基本レイアウトは初代から不変であり、最後までブレずに信念を貫いている。1958年に始まった初代モデルの開発段階で採用した基本レイアウトは、半世紀にわたって通用するほど秀逸だったのだ。
現行型のサンバーは、ダイハツ アトレー/ハイゼットカーゴのOEM供給車だが、たとえば個人運送業・赤帽用の特別仕様のノウハウはスバルからダイハツに受け継がれているなど、スバル時代のDNAが息づいている部分もある。
コメント
コメントの使い方R1/R2はレガシィ同等の強度を持つ前後バンパービームを普通車と同等の高さにセットするなど、衝突安全性が同時期のレガシィと同等となるように設計されてます。 もちろんピラーは普通車同等の3枚構成です。 それでR2の目方はなんと初代ラパンと同じです。 こんなクルマをラパンより安価で販売するスバルの苦悩が、いささかチープな内装に見え隠れしてます。