平成の日産スカイラインGT-R! 伝説のエンジニアが語る開発秘話

平成の日産スカイラインGT-R! 伝説のエンジニアが語る開発秘話

 R31型登場時の不評、それを受けてのR32型の開発、そしてそのなかで起きていた櫻井眞一郎氏から伊藤修令氏への開発主管責任者の交代…といった出来事を間近で見つめ、R33型・R34型の開発では開発主管として携わった渡邉衡三氏。

 平成GT-Rの生き字引と言っても過言ではない氏に、今だからこそ話せる開発秘話を聞く。

渡邉衡三(わたなべこうぞう)……1942年9月24日生まれ。東京大学工学部 大学院修士課程修了後、日産自動車入社。プリンス事業部第1車両設計部に配属となり、櫻井眞一郎氏の元でC10スカイライン、R381、R382などのサスペンション設計を担当。R32スカイラインでは実験主担、R33、R34ではチーフエンジニアを務める

※本稿は2019年2月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年3月10日号


■困難と挫折の繰り返しだった開発現場

 R32スカイラインは伊藤修令さんがチーフエンジニア、日産では商品主管と言っていましたが、開発責任者をされていました。伊藤さんはR31型の開発最終段階になって、体調を崩された櫻井眞一郎さんから受け継ぐように主管を任されたのです。

 ご存知のように、R31型は新開発エンジンの性能が思うように引き出すことができず、登場初期には大きな批判をいただきました。伊藤さんも忸怩(じくじ)たる思いだったことでしょう。

 次期型となるR32スカイラインの開発は1985年頃からスタートしていましたが、この時期、日産では『P901活動』の名のもとに、1990年に世界一のシャシー性能となっている、という目標を掲げていました。

 この成果を具現化した商品が、日本ではスカイライン、欧州ではプリメーラ、米国に向けてはZ32型フェアレディZだったのです。

R32GT-Rの実験主担として得た経験がその後のR33、R34の開発に活かされていった

 R32スカイラインは基準車ならびにGT-R共に目標を達成するべく開発が進められました。伊藤さんはスカイラインを復活させるという強い思いで開発に当たられていました。私は実験主担としてR32の開発に関わりました。伊藤さんが提示した開発コンセプトに基づいた車両を作り上げていく仕事です。

 スカイラインはしっかり走ってこそ、という基本コンセプトで、それまで同時並行的に開発が進められていたローレルとは切り離し、ホイールベースを短くし、トランクもずいぶんと小さくするなど実用車としての性能を思い切ってそぎ落とし、走りの性能を追求したのです。

 その象徴的な存在としてGT-Rのようなモデルが必要だと、伊藤さんは開発当初から思い描いていました。私には初期段階でハッキリと伊藤さんから「次のスカイラインはGT-Rをやる」と言われました。

 ただ“R32はGT-Rありきで車体サイズなどが決められた”、というのは間違いです。GT-Rを設定する計画はありましたが、まずは基準車で走りのスカイラインを復活させるという考えで、あのボディサイズは決められました。

苦闘の果てに誕生した32型は、それまでの日本車のパフォーマンスとは異次元のレベルを示した

 また、GT-RはグループAレースのためだけに開発されたというのも、正確にはちょっと違います。

 伊藤さんが掲げたGT-Rのコンセプトは『究極のロードゴーイングカー』。結果としてグループAレースで圧倒的な強さを見せつけることができましたが、それ以前として一般道でしっかりと走れる性能を求めたのがR32GT-Rだったのです。

 ただそれでは社内の各開発部門に説明するのがとても難しかったので、わかりやすく「グループAで勝つクルマ」という表現でGT-Rを説明したのです。

 開発現場はそれは大混乱でした。基準車だけでも大変なのに、そこにGT-Rですから。実質的に2車同時開発。工数はそこまでかけられないので、まずは基準車で試作車を作り実験をして問題点を洗い出す。

 約3カ月後に、この問題点を潰した2次試作車を作るのですが、基準車の玉成を図りつつ、これをベースとしたGT-Rの1回目試作車を作ることで効率化を図りました。

 R32型スカイラインの発表は1989年5月22日でしたが、GT-Rの発売は8月21日でした。この3カ月のズレは、まさに試作車の3カ月ステップがそのまま発売時期のズレでした。伊藤さんは当初同日発売を厳命していましたが、実験現場の実情を説明し、なんとか3カ月遅れを納得してもらったのです。

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