「物流の2024年問題」に絡めて、にわかに浮上してきた高速道路における大型トラックの最高速度の引き上げ問題だが、いくら優先度の高い「政策パッケージ」といえども、重大事故の懸念を軽視して議論を進めるというのは拙速というものだろう。
ここでは、あらためて大型トラックに装着されているスピードリミッターの役割と事故との関係、そして最近の事業用トラックの交通事故の状況等を見てみよう。
そこには、あまりにも安直で乱暴な最高速度引き上げ論の「不都合な真実」が見え隠れするのだ。
文・写真/フルロード編集部
あらためてスピードリミッターとは?
大型トラックに装着されているスピードリミッターは、時速90km以上のスピードが出せなくする速度抑制装置のこと。時速90kmを超えると燃料供給が抑制され、いくらアクセルを踏んでも加速できない仕組みになっている。
これは今から20年前、高速道路における大型トラックのスピード超過が重大事故を引き起こす要因になっていること、さらに定速走行による省燃費効果、ならびにCO2の排出削減効果が見込まれることから装着を推進しようというもので、国土交通省では、2003年9月に新型車から大型トラックへのスピードリミッターの装着義務付けを開始した。
対象となるのは車両総重量8トン以上、または最大積載量5トン以上のトラックで、使用過程のトラックに関しても順次適用され、2006年8月の時点で、大型トラック約78万台中、規制の対象車両の約49万台(約63%)に装着されるに至った。
また、年式が古いためスピードリミッターの装着が困難であったり、装着の効果も少ないため規制の対象外となっている約29万台についても、新型車への代替により装着が進んでいった。
2007年8月、国土交通省ではスピードリミッターの効果・影響評価を発表している。
大型トラックへの交通事故への影響変化を見ると、高速道路での事故発生件数は全体的に減少傾向にあり、2005年の大型トラックの死亡事故件数は、1997年から2002年の平均件数より約40%も低減していることがわかった。
もちろん、トラックの安全性の向上や高速道路の整備など、その他の要因も影響していようが、スピードリミッターの義務付けの効果は明白で、当時くすぶり続けていた「スピードリミッター不要論」も、これで完全に火が消えた。
また、スピードリミッターの装着で走行速度が低下することにより、燃費向上の効果も認められた。大型トラック全車にスピードリミッターが装着されると、高速道路を走行する全体の自動車から年間55.5~118.5トンのCO2排出量が削減すると推計された。
さらに交通流量等に与える影響については、スピードリミッター装着車の混入率が高くなると平均車速が低下する傾向にあるが、渋滞の増減や高速道路の走りやすさに与える影響について明確な変化は見られなかった。
また、輸送の長時間化などの影響が一部に見られたが、物流体系や大型トラックの勤務体系に大きな変化は見られなかった。
以上が2007年、今から16年前のスピードリミッターの効果・影響評価である。