元従業員の告発や、暴言交じりのLINEのやり取りなど、信じられない事実が次々と明らかになっているビッグモーター。ことの発端は、2022年6月に大手損保会社3社がビッグモーターへ寄せた「自動車修理に関する実態確認のお願い」に対し、社内調査にとどめたビッグモーターの報告が納得できるものではなかったため、2023年1月、利害関係を有しない弁護士によって特別調査委員会が設立されたこと。これによって衝撃の内容が書かれた調査報告書が公開されたわけだ。本稿では、その調査報告書の内容をご紹介しながら、筆者が受けた印象と、防御策について考えようと思う。
文:吉川賢一
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社長が一代で築き上げた、巨大な非上場企業
ビッグモーターグループは、全国各地に営業店を持つ、従業員5000人を超える中古車販売の最大手。元社長の兼重宏行氏が一代で築き上げた会社であり、息子で元副社長の兼重宏一氏との親子経営で成長を続けてきた非上場会社だ。ちなみに、ビッグモーターの親会社は、元社長と元副社長の資産管理会社であり、ビッグモーターはその100%子会社。そのためビッグモーターの会社代表から身を引いたとしても、ビッグモーターと親子との縁が完全に切れる訳ではない。
事業内容は主に、中古車の買い取りと販売、車検と一般整備、鈑金塗装業務および損害保険代理店。事業は右肩上がりで、2023年には全国300店舗以上もの規模を誇る。テレビCMもしょっちゅう流れており、誰もが知っていた中古車店であっただろう。
ビッグモーターに関しては、他にも衝撃の事実が明らかになっているが、冒頭の調査報告書に記載されているのは、板金塗装業務部門において、修理見積りに過分な作業を上乗せして損保会社へ過剰申告し、多分に費用を受け取り、収益としていたという点。では、具体的にどのような不適切行為が行われていたのか、報告書にあった内容を紹介する。
板金修理部門にも収益目標が設定されていた
たとえば、車体の骨格修理が必要な場合、修理工場は、損傷の程度に応じて、機械(タワー)を必要とするかスライドハンマーを使って人力で修理するのかを判断し、保険会社へその旨を申告する。この場合タワーによる修理のほうがコストが高くなるのだが、報告書によるとビッグモーターでは、実際にはタワーを必要としない損傷のケースでもタワーを使用したと申告し(そのぶんの作業賃を受け取って)、実際の作業はハンマーで修理するというようなケースが頻発していたという。
また、ニュース等でも取り上げられているように、修理費用を上乗せするため、物理的に修理車両を傷つけ、入庫時には無かった損傷を新たに加えることもあったとのこと。特別調査委員会による社員へのアンケート調査によると、そのようなケースが頻発するようになった理由は、修理板金部門にも収益目標が与えられていたことだという。
収益目標が未達となると、LINEで叱責されたり、役職降格や転勤通告が突如行われていたという。そうした恐怖政治の下で少しでも数字を伸ばすため、現場責任者のなかには、部下に対し前述のような犯罪ともいえる行為を強要する者がおり、それが常態化して現場もマヒ状態となってしまったとしている。
ビッグモーターの板金修理部門に、どこまでの役割があったのかわからないが(集客につながる仕事をする人がいたのかどうか)、単純に舞い込む修理をこなすだけだとすると、収益目標が与えられること自体に疑問を感じる。ビッグモーターグループ連結決算の中で、修理板金部門の売上高はわずか2~3%程度だという。本来は、事故に遭ったクルマを修理することで、その後の中古車購入に繋げてもらうための架け橋になるはずの部門に、収益目標が与えられていた(1件あたり14万円)というのは、上層部の異常な利益志向によるものではないだろうか。
また、板金修理工場の数を急増させたことで、見積もりに関する必要十分な知識と経験を有する者を配置できなくなったことも、現場がこうした状況に陥った理由のひとつだという。会社の役員は会社の利益を最大化することが仕事だが、成果主義だけを徹底しすぎたことで、現場との間で起きていた齟齬に気づけなかったのだろう。
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