今やスマートフォンをかざせば電車やバスにそのまま乗れる、キャッシュレス決済が当たり前になったが、キャッシュレスなどという言葉すら知られていなかった古い時代にも、現金不要のハイテク感溢れる運賃支払いシステムがあったのを覚えているだろうか!?
文・写真:中山修一
■バスが始めた元祖キャッシュレス
紙の回数券や定期券を持っていない利用者も、現金を使わずに運賃が払えれば、わざわざ財布の中から小銭を探したり、お釣りを受け取ったりする手間が省け、1人あたりの乗り降りにかかる時間が劇的に短縮される。
乗降が手早く済めば遅延の要因まで取り除ける……そんなメリットを持つ、現金不要の運賃支払いシステムをいち早く導入した公共交通機関は、意外にも路線バスだった。
神奈川県のバス事業者・神奈川中央交通が1988年に開始したサービスが日本初とされている。当時既に普及していた公衆電話のテレホンカードとよく似た、磁気で利用履歴や残額を管理するプリペイドカードで直接運賃を支払う、というものだった。
「神奈中バスカード」の商品名で、自社のバス路線に順次導入していった。これを皮切りに、全国で磁気プリペイドカード式の運賃支払いシステムを採用するバス事業者が出始めた。
■どの会社のバスにも乗れる工夫
ちょうど1990年代の前半にかけて、各地の事業者で磁気カードの採用が進められていったが、自社のバス路線でしか使えないものが多かった。
バス会社ごとに何枚も別々の種類のカードが必要になると、使い勝手が悪くなってしまうため、複数の事業者で同じカードを使えるようにする考えが自然に生まれた。
共通利用が可能だった主なプリペイドカードに、関東エリアの「バス共通カード(1992年)」、中国エリアの「6社共通バスカード(1993年)」、関西エリアの「スルッとKANSAI(1996年)」などが挙げられる。
ここでは関東エリアの「バス共通カード」に絞って話を進めていこう。同カードが登場した1992年の時点で、神奈中バス、横浜市営バス、川崎市営バス、江ノ電バスの4事業者で使用できた。
ただし、初期の頃に使えたのはバス運賃均一区間のみで、距離に応じて運賃が変わる路線には対応していなかったが、バス事業者ごとに段階的に対策が取られていった。
1994年になると、自局でも磁気カード(Tカード)を発行していた、都営バスと都電荒川線がラインナップに加わった。バス共通カードに合わせたため、都営のバス用Tカードは1年ほどの短いアクティブスパンだったと言える。
関東エリアの磁気カード全盛期は、バスはバス用、電車は電車用と、ある程度乗り物の種類で線引きがされていた。
そのため、駅の自動改札機にそのまま差し込んで電車に乗れた、JRの「イオカード(1991年)」や私鉄の「パスネット(2000年)」でのバス利用はできなかった。