ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第二十四回目となる今回は、加速を続けるトヨタのモノづくりの進化について、最新情報とともに紹介する。
※本稿は2023年10月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真/TOYOTA、ほか
初出:『ベストカー』2023年11月26日号
■更なる革新へ──モノづくりについてのトヨタからの強いメッセージ
BEV(電気自動車)における競争力を獲得するためのトヨタのモノづくりの進化が加速しています。
9月には新郷和晃チーフプロダクションオフィサー(CPO)が主宰した「モノづくりワークショップ」が開かれ、10月には出光興産と全固体電池の量産化に向けた協業で合意しました。
9月の「モノづくりワークショップ」は、CPOに就任した新郷執行役員が「クルマの未来を変えていこう!」をテーマに貞宝工場、明知工場、元町工場で2日間にわたって開催した生産新技術への取り組みを示したイベントでした。
テスラに負けない新しい車両製造の革新にチャレンジしていることに驚きました。
明知工場ではギガキャスト(アルミニウムでの大型の車体部品を一体成形する鋳造技術)の試作ライン、元町工場では次世代BEV実証ライン、貞宝工場においては全固体電池の開発ラインが目玉でした。
ただし、トヨタからの強いメッセージはこういった進化系の姿だけではありません。
イノベーションや進化のベースにある「匠の技」、1000万台を丁寧に製造していく「現場力」、マルチパスウェイ(全方位)で培ったさまざまな「技法・工法」の3つがデジタル技術と融合することで、モノづくりが進化するという基盤のところにありました。
貞宝工場では全固体電池の開発ラインを見学しましたが、からくりを応用した電池素材を積み重ねる工法などが開発されており、匠の技と燃料電池で培った技法・工法が力を発揮していました。
10月12日、トヨタと出光興産は全固体電池の量産化へ一歩踏み出しました。
トヨタにはレシピ(材料選択)を考える力があり、出光にはその材料をうまく作るノウハウがあります。
2027年~2028年に全固体電池を搭載したBEV数千台/年規模での量産が始まり、2030年の先には数万台/年に拡大させることを目指しています。
■ガキャストと新技術がトヨタのモノづくりを根本的に変える
ギガキャストと次世代BEV実証ラインには衝撃を受けました。
この掛け算によって次世代のBEVはモノづくりを根本的に変えるでしょう。誤解を恐れずに言えば、テスラもトヨタも基本的に同じ考えで次世代のBEV製造に取り組んでいるのです。
車体のプラットフォーム部分(アンダーボディ)はアルミへ素材が変わり、工法はギガキャストへ移行する。
アッパーボディはプレスと溶接で形成されますが、車体構造はアンダーボディとアッパーボディを一体化する「モノコック構造」を形成しません。
アッパーとアンダーを分離して、それぞれをいくつかのブロック(=モジュール)に分けて塗装、艤装を施した後に結合する「アンボックスト構造」に置き換わるのです。
トヨタの次世代BEVは、アンボックスト構造でモジュールを平行(パラレル)で艤装し、短い最終ラインで直線(シリアル)で組み上げる工程となるようで、テスラが今年3月に発表した「パラレル・シリアル」工法と基本は同じです。
アンダーボディにある電池構造物の接合タイミング、最終組み立てを自走させる、させないなどの違いはありますが、テスラのいうアンボックストのパラレル・シリアル工法とトヨタの次世代BEV実証ラインはほぼ同じ概念です。
少品種大量生産を目指すテスラが効率最重視の製造工程を目指すことは容易に想像できたのですが、多品種大量生産をグローバルに展開するトヨタも同じ方向を向いていることは衝撃です。次世代BEV製造方法の標準になっていく可能性を感じます。
現在、車両最終組み立て時間は約10時間かかります。トヨタの次世代BEV実証ラインはそれが概ね5時間に半減します。
パラレル(モジュール組み立て)工程で2.5時間、シリアル(最終メインライン)が2.5時間のイメージでしょうか。
また、アンボックストで工員の作業効率が2~3割改善され、工程数が半減される効果の掛け算で生産性は倍増し、リードタイムが半減します。
こういった目標値は次世代BEVの必達KPI(重要業績評価指標)となっていくことでしょう。
ただしトヨタは、この次世代製造技術は生産技術の選択肢を増やすものと認識しています。一気にすべてが置き換わるわけではありません。
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