2024年1月19日に阪神高速で発生した追突事故。軽自動車がタンクローリーの下へ潜り込むようにして、厚さ50cmにまで圧縮されてしまい、軽に乗っていた男女2名は帰らぬ人となってしまった。
渋滞の最後尾で停止中の軽に、よそ見をしていた大型トラックが突っ込んだことが事故の原因だったようだが、SNSでは、ぺしゃんこになってしまった軽自動車のあまりの惨状に、軽の安全性を心配する投稿が相次いだ。はたして軽自動車は危険なのか、今回、軽自動車の安全性について、自動車メーカーの車体設計エンジニア(A氏)と、法規にも詳しい車両開発エンジニア(B氏)に、匿名を条件に取材させていただいた。
文:吉川賢一
アイキャッチ画像:Adobe Stock_Orange Bowl
写真:HONDA、DAIHATSU、SUZUKI、写真AC、独立行政法人 自動車事故対策機構、エムスリープロダクション
評価項目に入っていない衝突様式は、対策されていない
クルマの衝突安全性については、自動車の安全性を評価・公表しているNASVA(独立行政法人 自動車事故対策機構)のサイトで比較ができる。新型車の衝突安全性をレーティングしており、軽自動車の成績を比較することもできる。この衝突安全性を評価するための評価項目や試験方法には、フルラップ衝突(正面衝突)やオフセット衝突(前側の一部がぶつかること)、側面衝突、後面衝突などがあるそうだが、B氏によると、これらは、各国の交通事情や交通事故事例を老慮して決められているもので(日本だとJNCAP)、これをもとに、各自動車メーカーが目標値を定め、車体設計をしているという。
事故事例をもとに決めているということは、言い換えれば、過去に事例がない、もしくは少ない衝突様式は評価項目に入っていない可能性があるということであり、評価項目に入っていない衝突様式は、設計の段階で考慮されていない可能性が高いという。
あらゆる衝突様式まで対策すると、クルマは戦車のように重くなってしまう
評価項目に関しては、警察や自動車関連メーカー、有識者などの意見を元に年々アップデートされてはいるそうだが、A氏によると、どんな衝突様式に対しても対策しようとすると、戦車のような強度と重量が必要になってくるという。
「当該事故では、軽自動車が厚み50cm程度にまで圧縮されている状況が確認できますが、前後を挟まれた状況で後ろから大型トラックに衝突されるような衝突様式は、世界中どの国でも想定されていない、レアなケースです。仮に間に入ったクルマがコンパクトカーやミニバン、SUVであったとしても、100cm程度にはなってしまっていたのではないでしょうか。」とA氏はいう。「軽は危険」なのではなく、最悪のレアケースが起こってしまった、と言うのが現役エンジニアたちの感覚のようだ。
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