クルマに乗っている人であれば、「クルマの塗装は廉価車と高額車では何が違うのか?」といった塗装に関する疑問を持つことがあるだろう。
ぜいたくを言えば、安いのに塗装のいいクルマに乗りたい。
当記事では30年以上に渡るボディコーティングの経験から廉価車から超高額車まで1万台以上のクルマの塗装を目にし、クルマの塗装に精通した凄腕、現役のプロの磨き屋X氏に話を伺い、塗装に対する疑問に応える。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、SUBARU、DAIHATSU、ベストカー編集部
クルマの塗装は廉価車と高額車では何が違うのか?
「意外に感じられると思いますが、クルマの塗料というのは例えばソリッドの白と色を限定すれば、どのクルマもそう変わりありません。では『キレイ、美しい』といった美的な観点で見た廉価車と高額車に代表されるクルマの塗装の具体的な違いは、ズバリ塗装の設備と技術力も含めた手間です」(X氏:以下同)
手間の掛かった塗装というと代表的な例はやはりトヨタセンチュリー(1960万円)である。
「日本車でも塗装の方法はさまざまですが、コート(塗装)とベイク(乾燥、焼付)の回数は3コート2ベイク(電着塗装、乾燥、中塗りとベースカラーを兼ねた塗装、乾燥、クリア層)、3コート4ベイク(電着塗装、乾燥、中塗り塗装、乾燥、ベースカラーの塗装、クリア層)が標準的なところです」
それに対し現行センチュリーはどう違うのか?
「特に神威(かむい)という名前も付くエターナルブラックは電着塗装、焼付、中塗、焼付、ベースカラー①、クリア層、焼付、ベースカラー②、カラークリア、焼付、磨き跡などのすり傷を防ぐトップクリア、焼付という7コート5ベイクです。さらにエターナルブラックの現行センチュリーの塗装には塗装面を鏡のように平らにする2回の水研、最後にバフ研磨という工程も含まれており、これだけの手間を知るとエターナルブラックのセンチュリーの美しさもよく理解していただけると思います」
【※永田注】
こういった塗装のため現行センチュリーのエターナルブラックの塗装には1台40時間というとてつもない時間が掛かる。
一般的にクルマの塗装は防錆処理から仕上げ塗装まで11時間程度と言われているのでいかにセンチュリーの塗装に手間がかかっているかがわかる。
それだけに現行センチュリーのエターナルブラックはトヨタが漆黒感と表現する深みのある美しさを持っており、ボディを鏡のようして顔などを見ると本当に鮮明に映る。
廉価車でもいい塗装がされているクルマはないのか?
「車格&価格と塗装の質は相関関係に近いところがあるのは事実ですが、メタリック、軽自動車やコンパクトカーにも2万から5万円(プラス消費税)のオプションで設定されるパール○○、マツダのソウルレッドクリスタルメタリックやマシーングレープレミアムメタリックといったカラーは総合的な塗装の膜が厚くなるので、艶の深みが良くなるなど美しさが増します。この点を考えると『廉価車でいい塗装が欲しい』というなら色の好みが合えばオプションカラーを選ぶのはいい選択と言えるでしょう。オプションカラーを選んだことによる塗装の品質の向上はお値段以上の価値があります」
またX氏は良い塗装は「美しさ以外の観点もあるのでは」ともいう。
「そもそも良い塗装とはなんでしょうか? 1つはここまで書いた美しさなのは間違いありません。しかしクルマは実用品でもありますから『過酷な使用にも耐える強さ、耐久性』というのも観点もあるのではないでしょうか」
具体的にはどのようなクルマがあるのだろうか。
「極端な例としては軽トラック、軽1BOXバンの標準カラーは美しさこそありませんが、10年以上厳しい使い方をしても塗装が剥がれるとか錆びるといったことは滅多にありません。さらにボディを雑巾で拭くといった簡単なお手入れだけでもキレイに保てる訳ですから、だいたいこのコンセプトとなっている商用車も良い塗装の1つの形態と言えるのではないしょうか」
意外な観点ではあるが、確かに商用車だけでなくガシガシ使うクルマであれば、「美しさよりも強さ」という塗装もあれば面白そうだ。
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