いよいよ1年後に迫ってきた東京オリンピック。約半世紀ぶりの東京でのオリンピックということで盛り上がっている人も多いのではないだろうか。
しかし物流や旅客輸送などに携わる人にとってはややもすれば「厄介なイベント」になっているかもしれない。
それが大会期間中の関係者などの移動に関連した道路混雑だ。道路混雑を避けるために首都高など一部出入り口の封鎖などを検討しているという。
2019年7月に実施された交通規制実験から、1年後のオリンピック開催時の道路状況が見えてきました。
文:清水草一/写真:清水草一、編集部
■都心の外側は混雑したが都心はガラガラだった
2020年の東京オリンピックの渋滞対策として、2019年7月24日(水)と26日(金)の2日間、東京23区内で大規模な交通規制実験が行われた。
その結果はというと、24日に関しては、首都高の交通量は前年同期比7.3%減。一般道は15カ所で同4%減。
わかりやすく言うと、「都心の外側は混んだけれど、内側はスッカラカン」だった。
首都高は、本線料金所のレーン数を絞ったことで、そこを先頭にかなりの渋滞が発生したが、それより内側の都心部は、合計40か所近い入口を閉鎖したこともあって、ほとんど渋滞ナシ。
いつも首都高を使っているドライバーの感覚では「ガラガラ」になった。
一方一般道は、青信号の時間が短くされた環七の交差点付近を先頭に、通常ではありえない渋滞が発生した。
たとえば国道20号線(甲州街道)は、高井戸、永福両入口が閉鎖され、首都高に流入したいクルマもそのまま国道を走らざるを得なかったこともあり、10キロ前後の超ノロノロ渋滞(歩く程度の速さ)が発生した。
国道246号線など、他の幹線道路も似たような状況となった。その分都心部は、ふだんより交通量が少な目でスムーズだった。
26日は月末の金曜日ということで、さらなる混乱が心配されたが、警察が環七の青信号をやや緩和したこともあり、一般道の局所的な混雑も緩和。
首都高の混雑は24日よりはやや増加したものの、都心部は十分スムーズだった。
驚くべきは、両日とも、通常なら平日の夕方に必ず発生する下り線の渋滞がほぼ見られなかったことだ。
つまり、交通規制で都心部への流入交通が減った分、夕方の流出交通も減ったのだ。まあ、首都高を使いたくても、多数の入口が閉鎖されていて使えなかったという面もあるが。
■「過大な交通規制は必要がない」と言える根拠
今回の交通規制については、メディアの反応は分かれた。
「まずは順調」と報じたところもあれば「組織委が掲げる、首都高の交通量最大30%削減の目標にはほど遠かった」と、厳しく見るところもあった。
しかし現実として、規制が行われた両日、都心部は首都高も一般道も十分スムーズに流れていた。
特に首都高の中央環状線より内側の区間は、ほとんど渋滞フリーだった。24日の混雑量の減少率は、湾岸線東行きが94%減、3号渋谷線上りは92%減、5号池袋線上りは89%減。
混雑量が9割減ということは、渋滞はほとんどなかったということだ。この結果のどこに問題があるのだろう。
つまり、組織委が掲げた「首都高の交通量最大30%減」という目標自体が、あまりにも過大なのである。
平日に比べ交通量が20%ほど減る日曜日、首都高からはほとんど渋滞が消える。最大30%も減らす必要があるとは到底思えない。
その問いに対しては、「本番では五輪関係車両が加わるから」との答えが返ってくるだろう。
2020TDM(交通需要マネジメント)推進プロジェクトは、このように推計している。
「選手、メディア関係者は、バス約2千台、バン・乗用車など約4千台、合計で約 6千台の車を使って移動します。
主に選手村や宿泊施設と各競技会場の間を1日の間に複数回行き来することにより、1日約5~6万台に相当する交通量増加になると見込んでいます」
これらの車両の多くが首都高を利用する。6万台/日増えれば、交通量は5%ほど増える計算になる。だから20%ではなく30%減が目標なのだと。
しかし考えてみてほしい。6千台のクルマで1日6万台の増加になるということは、1台あたり1日10回も首都高に乗る計算だ。
本当にこんなにピストン輸送しまくるのだろうか? すべての関係車両が常に動き回っているのか? それは逆に物理的に不可能ではないか? この予測自体があまりに過大なのではないか? せいぜいこの半分くらいではないだろうか。
一方、観客はすべて鉄道などの公共交通機関を使って移動する。
一般客用の駐車場などないのだから当然だ。オリンピック期間中、厳しい交通規制が敷かれることがわかっているから、東京に自家用車で観光等に訪れる地方客だって減るはずだ。
それでなぜ、「何もしなければ渋滞は通年の2倍になることも予想される」のか。あまりに杞憂が過ぎないか?
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