BMWは今回のフランクフルトモーターショー(2019年9月12~23日(日本時間))に、既知の物質でもっとも黒いと言われる「VANTA(ベンタ)ブラック」の技術を塗料に用いたBMW X6特別仕様を出品する、と発表した。
カーボンナノチューブを用いて可視光の99.965%を吸収するVANTAブラックの技術を元にした塗料で塗られたクルマ。担当したデザイナーは「光の反射や映り込みをいっさい考慮しないため、自動車デザインの新たな可能性を感じる」と語っているが、確かに公開された写真を見ると、ボディパネル以外の部分、ライトやナンバー、グリルが異様な存在感を放つように見えて、不思議な感覚に包まれる。
現時点ではまだショーモデルの特別仕様車だが、公式リリースや仕様を読むと、将来的に市販モデルのオプションとして設定する可能性を示唆している(BMW公式リリースでインタビューに答えるVANTAブラック技術者は「この塗料技術の発表以来、世界中の自動車メーカーから問い合わせがあった」と語っている)。
しかしこの「この世で最も黒いクルマ」、もし夜中に前を走っていたら自分のクルマの衝突軽減ブレーキ用カメラは認識してくれるのでしょうか? 危なくない? それだけでなく、どうも別方向で意外な弱点もありそうな気が…。
文:鈴木直也 写真:BMW
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■「三次元の外観を失っているよう」な黒
モーターショー用のコンセプトカーには、量産車では使えない特殊な塗装がしばしば用いられる。
よく見かけるのが、何層も重ね塗りをして反射の深みや上質な光沢感を表現するテクニック。
まるで金属のような光沢のシルバーとか、見る角度によってさまざまに変化するリフレクションを表現したメタリック色など、華やかなコンセプトカーにはそれにふさわしいペイントが不可欠だ。
ところが、そんな常識に真っ向から反旗を翻すユニークな塗料が出現した。
BMWがフランクフルトショーに出品したX6は、全球反射率1%と「世界一黒い」ことが特徴。プレスリリースによると「この塗料でペイントされた素材は三次元の外観を失っている」ように見えるほど、とにかく真っ黒なのだという。
この特殊な塗装は、「Surrey NanoSystems」という英国の会社が航空宇宙用途に開発したもの。Vertically Aligned Nano Tube を略して「VANTA(ベンタ)ブラック」。人工衛星用では最大99.965%の光を吸収し、反射率と迷光をほぼ完全に排除する機能を持っているという。
その原理は、長さが14〜50マイクロメートル、直径が20ナノメートルのカーボンナノチューブを垂直に整列させた構造にある。入射した光は垂直に並んだナノチューブ内にほぼ完全に吸収され、最終的に熱に変換されてしまう。光を反射しない物体は、人間の目にはブラックホールのような存在となるわけだ。
プレスフォトを見ると、たしかに「カメラマン露出間違えた?」と思えるほど黒ぐろとした印象。プレスラインはもちろん、ドアのパーティングラインやホイールアーチすら漆黒の闇に沈んでいて、ずーっと見ていると立体物とは思えないような錯覚に陥る。
最近、高級車を中心につや消しのマット塗装が流行っているが、コイツはその究極の存在。実車がどういう質感に見えるのかかおおいに興味深いが、光を反射しないがゆえに逆にものすごく目立つということも考えられそうだ。
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