メルセデス・ベンツ・トラックスの新しいフラッグシップとなる、長距離輸送用のバッテリーEV大型トラクタ「eアクトロス600」だが、量産開始を前に同社史上最大の試験走行を行なっている。
欧州最北端から最南端まで公共の充電ステーションのみを使って走破するなど、BEVトラックの実用性の高さを証明し、そのためのインフラ整備を促している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
BEVトラックでベンツ史上最大規模の試験走行
メルセデス・ベンツ・トラックスは、間もなく量産を開始する長距離輸送用BEV大型トラック「eアクトロス600」で欧州をめぐる試験ツアーを実施している。7月2日には12日間の累計で4436kmを電気のみで走行し、道路で行ける地域としては欧州本土の最北端となるノルウェーのノールカップに到達した。
eアクトロス600はベンツの新しい電動フラッグシップトラックで、量産化を前にプロトタイプ2台が6月11日にフランクフルトを出発した。世界最古の自動車メーカーとされる同社にとっても、過去最大規模の試験走行だ。
セミトレーラを連結して総重量40トンのバッテリーEV(BEV)が、欧州20か国、1万3000kmを走行する計画だ。
ノルウェーではツアーを通じて最長となる480kmの距離を途中充電なしで走行した。同車の航続距離はメーカー公称値で500kmだが、走行後でも航続可能距離は約30km残っていた。なお、当日は強風や雨など厳しい環境だったという。
そして、7月17日には欧州本土最南端のタリファ(スペイン)に到達し、欧州最北端から最南端への走破に成功した。走行距離は累計1万0697kmとなったが、これまでのところ、日々の走行を終えた後に公共の充電ステーションで充電するだけで電力は間に合っているそうだ。
eアクトロス600(プロトタイプ)の旅路だが、6月11日にフランクフルトを出発した後、ドイツを北に抜け、デンマーク、スウェーデンを通り、欧州本土最北端となるノルウェーのノールカップに到達。
そこから南下しフィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、オーストリア、スロバキア、ハンガリー、クロアチア、スロベニア、イタリア、フランスを通ってスペインに。
同国で欧州最南端のタリファを通過した後は再び北上し、ポルトガル、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクを経由して7月末にドイツに戻るという計画だ。
様々な環境を経験することで、知見を蓄積
今回の試験走行では、異なる地形と気候帯を経験することでエネルギー消費への影響を注視する。また、ツアーを通じて得られた知見は顧客とも共有することにしている。
容量600kWhを超える高効率バッテリー(正確には207kWh容量のバッテリーパックを3基搭載し、合計621kWh)と、社内で新開発した電動アクスルにより500kmの航続距離を謳い、ツアーでは公共の充電ステーションのみを利用することで、その実用性を証明する。
タリファの通過に際してメルセデス・ベンツ・トラックスで試験を担当するクリストフ・ヴィーバー博士は次のように話している。
「ツアーのこれまでの実績は、バッテリーによる長距離輸送が欧州ではすでに可能であることを示しています。強風、雨、30度を超える気温など厳しい環境でも、eアクトロス600のプロトタイプは極めて信頼できるトラックとなっています。総重量40トンで500kmを走行できるトラックは、既に現実のものとなりました。
このツアーでは公共の充電ステーションだけを使用しています。北欧ではセミトレーラを連結したままステーションに入って充電できましたが、南部の一部の施設ではトレーラを切り離して、トラクタヘッドのみで行く必要がありました」。
欧州で長距離輸送を行なっているメルセデス・ベンツ・トラックスの顧客のうち、約60%は走行距離が500km以内だった。連結総重量40トンの4×2トラクタで500kmの航続距離を謳うeアクトロス600なら、そうした用途の電動化は充分に可能だ。公共インフラが未整備であっても、会社の駐車場や荷積・荷卸先の施設でも対応可能だからだ。
ただし、それ以外の長距離輸送では公共の充電インフラの整備が極めて重要になる。今回のツアーで公共の充電ステーションのみを使うのは、BEVトラックの汎用性をアピールする狙いもありそうだ。
また、急速充電規格としてはCCS方式が400kWまで対応しているものの、やはり大型トラックを現実的な時間で充電にするには1メガワット(MW=1000kW)級の電力が必要になる。
eアクトロス600はMCS(メガワット・チャージング・システム)に後から対応する予定で(MCSは現在、規格策定中のため)、おそらく未対応のまま納車されることになる初期モデルに対してもレトロフィット可能とする予定だ。
MCSが利用可能になれば、20-80%充電は1MWで約30分となり、実用性が大幅に高くなるだろう。ただ、そのためには送電網や発電力の強化も必要となるため、業界の垣根を超えた取り組みが重要になる。
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