取材協力:バイク王つくば絶版車館
レーサーレプリカは1980年代におけるバイクシーンの主役であり、その原点とも言えるのがヤマハが1980年に発売したRZ250であると言えるだろう。RZ250は下火になりつつあった2ストロークエンジンスポーツバイク市場に喝を入れ、その後10年ほど続く2ストローク250ccレーサーレプリカ主役の時代を作り出した。
時代を変えた水冷2ストロークエンジン
1979年のパリモーターショーに、ヤマハは1台のスポーツバイクを展示した。RD350と名付けられたそのバイクは、水冷の2ストローク347ccのエンジンを搭載していた。以前にも空冷エンジンを搭載したRD350というバイクが存在していたため、この新しいRD350は水冷を意味する「LC=リキッドクールド」を末尾に付けることとなった。
そして、その年の東京モーターショーに、RD350LCの国内版が展示されて話題をさらった。「RZ250」と名付けられたそのバイクは、RD350のボアを64mmから54mmに変更し、ボア×ストローク54×54mmのスクエア比率を採用した247ccエンジンを搭載していた。このボア×ストローク54×54mmの247ccエンジンは当時の市販レーサーTZと同じ設定であり、モノクロスサスペンションを採用した車体なども含めて、この時代にはまだ無かった「レーサーレプリカ」と呼んで遜色ない仕上がりであった。
当然のようにその年の東京モーターショーの主役となったRZ250は翌1980年に発売され、納車まで数ヶ月待ちとなる大ヒットモデルとなった。そして、このRZの成功は他のメーカーの2ストロークスポーツバイク開発に火をつけ、1980年代を席巻するレーサーレプリカブームの引き金となったのである。
レーサーTZの技術を全身に受け継ぐ
4L3型と呼ばれる初代RZ250は、1976-77年型のTZ250と共通する部分が多い。当然市販車として求められるコストの問題や開発時期なども関係するのだが、RZ250が発表された1979年のTZ250はスイングアームにアルミが使用されている。また、フレームの材質が一般的なスチール製からクロームモリブデン鋼製に変更され、タンクの形状もフレームに沿ってカットされた近代的なレーサーのデザインへと変更されている。
TZに照らし合わせると各部は型落ちとも言える装備ではあったが、当時のユーザーからして見ればRZ250はまるでサーキットから飛び出してきたレーサーそのものに感じられたはずだ。また、TZがスポークホイールだったのに対してキャストホイールを採用したいたり、ハロゲンヘッドライトなど当時の最新の装備が与えられていた。
RZ250の登場した当時、既に2ストロークエンジンは環境問題などの影響で下火になりつつあったため、2ストロークエンジンを得意としたヤマハはその集大成的な意味を込めてこのRZ250を世に送り出したという。しかし、「RZショック」などとも呼ばれたその大ヒットが2ストロークエンジンを復活させ、この後約10年に渡る2ストローク250ccの黄金時代を築いたのである。
クラスを超えた性能を示したRZ
4L3型RZ250に搭載された水冷2ストローク並列2気筒エンジンは、当時最強となる35PS/8000rpmの最高出力と、3.0kgm/8000rpmの最大トルクを発生。ただし、5000rpmから下は使い物にならないと評されたピーキーなエンジン特性と、パワーバンドに入った途端に炸裂するパワーは乗る者を選んだ。
車体は当時最新のモノクロスサスペンションをリアに採用したスチール製のフレームや、チューブレスのキャストホイールなどを装備し、乾燥重量は139kgと先代の空冷エンジンを搭載したRD250よりも10kg以上軽量に仕上げられていた。ただ、フロントシングルディスク、リアドラムというブレーキはこのバイクの性能に対してプアと言わざるを得なく、兄弟車RZ350のパーツを流用したダブルディスク化は定番のカスタムメニューとなった。
国内向けのRZ350は1981年に登場し、ボア×ストローク64x54mm の347ccエンジンは最高出力45PS/8500rpm、最大トルク3.8kgm/8000rpmを発揮し、その暴力的とも言われた加速性能で「ナナハンキラー」という異名をとった。ただ、車検という問題もあり、国内においてはあくまでも主役は250であり、350の販売台数は伸び悩んだ。
RZR、そしてTZRへとその魂は受け継がれる
ホンダからは1982年に4ストロークのV2エンジンを搭載したVT250Fが最高出力35PSで登場し、その扱いやすさもあって大ヒット。VT250FはワークスレーサーNR500の技術が投入された車両であり、RZと共に1980年代初頭にバイクブーム、そしてレーサーレプリカブームの基礎を築くこととなった。
RZ250は1983年に新設計されたフレームにYPVS付きの43PS仕様エンジンを搭載したRZ250Rへとフルモデルチェンジし、従来の速さに加えて扱いやすさを備えることで、より多くのユーザーにスポーツバイクの楽しさを広げる存在となった。また、規制の緩和もあり、フレームマウントのカウルを装備したRZ250RRもラインナップされた。
RZシリーズはその後TZRの登場によってレーサーレプリカブームの第一線から退くことになるが、その存在が現代の日本のスポーツバイクの原点であるということに変わりはない。中古車情報サイトで4L3型RZ250を探すと100万円を切る車体はもう見当たらず、ネットオークションなどでも100万円以下でまともな車体を探すのは難しくなってしまった。歴史的価値という観点から見ても今後ますます価格は上昇していくのは間違いなく、程度の良い個体は減っていく一方だろう。どうしても手に入れたいのであれば、今が最後のチャンスなのかもしれない。
RZ250主要諸元(1980)
・全長×全幅×全高:2080×740×1085mm
・ホイールベース:1355mm
・シート高:790mm
・乾燥重量:139kg
・エジンン:水冷2ストロークピストンリードバルブ並列2気筒247cc
・最高出力:35PS/8000rpm
・最大トルク:3.0kgm/8000rpm
・燃料タンク容量:16.5L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=3.00-18、R=3.50-18
・価格:35万4000円(当時価格)
撮影協力:バイク王つくば絶版車館
コメント
コメントの使い方