若者好みのカスタムパーツを装備し、ビッグスクーターブームを牽引したフュージョンType X

若者好みのカスタムパーツを装備し、ビッグスクーターブームを牽引したフュージョンType X

取材協力:バイク王つくば絶版車館

 元祖おしゃれビッグスクーターと言えるフュージョンは、スクーターの既成概念を壊したエポックメイキングなモデルだ。その個性的なデザインは若者からベテランまで幅広いライダーに愛され、一旦生産が中止されたもののその後再生産されている。

文/後藤秀之 Webikeプラス編集部

 

 
 
 

おじさんの乗り物から若者の乗り物へ

 その昔バイクの免許は車の免許のおまけてついてきた。その免許は排気量のリミットもなく、逆輸入のリッターバイクにも乗ることができた。1970〜1980年代にかけて巻き起こったミニバイクブームは、お年寄りから女子高生まで幅広い層にスクーターを浸透させた。そんな中、1984年に高速道路にも乗れる250ccクラスのスクーターとして「スペイシー250フリーウェイ」が誕生したが、それは原付以上の免許を持つ「おじさん」が乗るか、バイク便用のバイクという枠から出ることは無かった。そんな冴えないイメージでスタートした250ccクラスのスクーターだったが、そこに革命を起こしたとも言えるのがホンダが1986年に発売したフュージョンだった。

 1986年といえばまだレーサーレプリカブームの真っ只中であり、10代、20代の若者はフルカウルのレーサーレプリカに乗るのが基本ではあった。そんな中、1988年に大友克洋氏によるアニメ映画「AKIRA」が公開される。この映画は世界中で評価されることになるのだが、映画の内容と同じくらい主人公の金田が乗る「金田のバイク」が注目を集めた。設定状このバイクはモーターで走るEVなのだが、大友氏による優れたデザインはバイク業界やサブカル業界を賑わせた。そして、その乗車姿勢やデザインに近いバイクを当時のラインナップから探すと、フュージョンが最も近いイメージを持っていた。

 「AKIRA」の影響があったかどうかは定かではないが、それ以降原宿あたりでは少しヤレた感じのフュージョンにカラフルなステッカーを貼り、半キャップに革ジャンというスタイルのライダーを見かけるようになったのを覚えている。もしかしたらハーレーユーザーのセカンドバイクだったのかもしれないし、都心の一部でのブームでしか無かったのだろうが、プチ・フュージョンブームとも言える現象が確実に起こっていた。しかし、これらのライダーが買うのは大抵中古であり、ホンダとしての売り上げが大幅に向上したということは無かったのだろう。フュージョンは1997年に生産中止となった。

 

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50cc、80cc、125ccで展開されていたスペイシーシリーズに、高速道路も走れるトップモデルとして投入されたスペイシー250フリーウェイ。

 

 

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フュージョンは二人乗りを楽しめる大型スクーターとして登場。感覚としてはGLシリーズなどの流れにある、ラグジュアリースクーターだった。

 

 
 
 

ビッグスクーターブームによって起こった奇跡の再生産

 フュージョンが生産中止になる少し前、1995年にヤマハから1台の新型250ccクラススクーターが発売された。「マジェスティ」と名付けられたそのスクーターは、それまでのメインユーザーである「おじさん」だけではなく、若者にも受け入れられ翌1996年には250ccクラスの登録台数トップを記録した。マジェスティは好調な売り上げを続け、若者によってバーハンドル化などのカスタムが施されるようになる。1999年に第二世代となる5GM系が発売されると、他メーカーを巻き込んだスクーターブームへと発展した。

 ホンダからは1997年にフュージョンの後継にあたるフォーサイトが発売されたが、マジェスティの牙城を崩すことはできず、2000年にフォルツァを発売してやっとスクーターブームに乗ることに成功した。ただ、スクーターブームの中で、ホンダのスクーターが注目されていないという訳では無かった。若者たちは人とは違うカスタムバイクを作ろうと必死になっており、その結果として一部のユーザーが注目したのが当時格安で販売されていた中古のフュージョンだった。カスタムベースとしてのフュージョンはスクーターブームを牽引する存在となり、その結果としてホンダは2003年にフュージョンの再生産を決定したのである。

 

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スクーター界の革命児となったヤマハのマジェスティは、若者を巻き込んだビッグスクーターブームを巻き起こす。

 

 

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フュージョンの実質的な後継車種となったフォーサイトは、若者の支持を得ることができずにビッグスクーターブームに乗れなかった。

 

 

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ビッグスクーターブームで一人勝ちになったのが、二代目となる5GM系マジェスティ。若者を意識したバリエーションも展開された。

 

バリエーションの拡大で、さらなるファンを獲得

 フュージョンがそれ以前の250ccスクーターと大きく違っていたのは、そのスタイリングである。フュージョン以前の250ccクラススクーターは実用一点張りであり、車で言えばライト版のような商用車をイメージさせる立場にあった。実際のユーザーもビジネスユーザーが多く、リアに大きなボックスを付けるような使い方が一般的であった。

 それに対してフュージョンは、ロングホイールベースの車体にゆったりと二人乗りできるシートを持ち、当時四輪車で流行が始まっていたデジタルメーターを装備するなど四輪車で言うところのハイソカー(※1980年頃にソアラやレジェンドなど高級志向の車がそう呼ばれた)的な仕上がり。シアシートの下には純正オプションのヘルメットであれは2個入る大型のトランクが設けられており、積載製に関しても先進的な装備が与えられていた。デザインも「金田のバイク」とまでは行かないまでもスポーティかつ未来的なイメージでまとめられており、当時のスクーターとしては抜群に格好が良かった。

 フュージョンは「HERIX」として輸出され、海外でも成功したモデルであった。国内での再生産後は、今回の撮影車であるType Xをラインナップ。これはユーザーのニーズ合わせてショートスクリーンや剥き出しのパイプハンドルを装備し、カラーオーダーなども設定されたモデルだ。2004年にはボディと同色のアンダーカウルや専用シートを備えたType XXが加わり、1996年に設定された上級グレードとなるSEも2006年から復活している。

 

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Type Xは、2003年に再生産が開始されたフュージョンに加わったバリエーション。剥き出しのバーハンドルやショートスクリーンが装備される。

 

 

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フュージョンの魅力でもあるボリュームのあるリアビューは、リアシート下のトランクが生んでいると言ってよいだろう。

 

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アメリカンバイク的に足を大きく前に投げ出す感じになるポジションは、「金田のバイク」をイメージさせるポイントだ。

 

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身長171cm、体重65kgのライダーが跨った状態。シートの幅はあるが、シート高が低いので足つき性は良好だ。

 

 

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派手目のカラーをラインナップしたType XXは、若者をターゲットにしたカスタム仕様で人気を博した。

 

 

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SEは初期モデルに設定されたアップグレード版で、後期モデルでは2005年にType Xを除くグレードを全廃してSEに統一されている。

 

20年間変わらなかった基本設計

 フュージョンのパワーユニットはスペイシー250フリーウェイと同じ水冷4ストロークSOHC単気筒244ccで、スペックも同じ最高出力20PS/7500rpm、最大トルク2.2kgm/5500rpm。車両重量は168kgとスペイシーよりも30kg以上重くなっていたが、街中をキビキビ走り回るというよりもゆったりとした走りを楽しむというフュージョンの性格を考えれば特にネガティブな要素とはならなかった。2003年から再生産されたモデルでは、排出ガス規制に対応するために二時空気導入装置などが追加され、最高出力19PS/7500rpm、最大トルク2.1kgm/5000rpmへと

 ホイール径はフロント12インチ、リア10インチという設定で、前後10インチのスペイシー250フリーウェイよりもアメリカンバイクを思い起こさせる穏やかなハンドリングであった。ブレーキはフロントが油圧ディスク、リアがドラムで、リアブレーキのコントロールにはフットブレーキタイプが採用されている。また、サスペンションはフロントにトルク応答型アンチノーズダイブ機構TLAD(トラッド)を採用したボトムリンク式のフロントフォークを装備するなど、当時としては先進的であったと言えるだろう。

 フュージョンは実用一点張りであったスクーターの概念を打ち壊した、「カッコいい」250cccスクーターの元祖であったと言えるだろう。そして、ビッグスクーターブームを牽引した一台であり、国内では紆余曲折はあったものの、最終的にはヒットモデルとして2007年まで生産が継続された。

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Type Xはカスタムスクーターの定番アイテムとなるショートスクリーン最初から装備する。ヘッドライトは2006年型でマルチリフレクター化されている。

 

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デジタルメーターとその周りに整然と並べられたインジケーター類が、「ハイソカー」をイメージさせるコクピット。

 

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Type Xのハンドルバーはカバーが無く剥き出しのパイプハンドル。どのみち外されてしまうパーツにコストをかける必要はないとの判断だろう

 

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フュージョンの真髄はこのシートにあると言っても過言ではない。ゆったりしており、タンデムが快適にできるデザインだ。

 

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