今年3月に発売されたホンダ「Rebel250 E-Clutch(レブル250 Eクラッチ)」は、250ccクラスで大人気を誇るクルーザー・レブル250に、最新のクラッチアシストシステム・Eクラッチを搭載した期待の新型モデル。ただでさえ扱いやすいレブルが新技術でさらに乗りやすくなったというわけだが、実際の乗り心地はどうなのだろうか? 早速試乗してみたところ、結論はすぐに出た――最高です!
そもそもEクラッチって何ですか?
レブル250は2017年に登場したボバースタイルのクルーザーで、発売するやいなや人気沸騰。新車の売れ行きランキングでは7年連続で1位を獲得し続けているレジェンドモデルだ。250ccの水冷シングルエンジンは扱いやすいパワーを発揮、レトロな丸ヘッドライトは可愛らしさもありつつ、迫力のある車体の長さと太いタイヤを装備。それでいてクルーザーらしい低いシート(現行バイクの中でほぼ最低の低さ!)で足つきも抜群。
免許取り立てのビギナーの多くからファーストバイクに選ばれているのは、そんなレブル独特の親しみやすさからのものだろう。
そんなレブルに今回搭載された「Eクラッチ」は、2023年に発表されたばかりの新機構。センサーとモーターの制御によって「クラッチ操作をしなくてもシフトチェンジができる」というシステムだ。つまりシフトレバーを踏んだり上げたり、ギアを操作する際に「半クラッチ」をライダーがする必要がないということ。正確にはEクラッチが最適な半クラッチを自動で制御してくれるため、ライダーはポンポンと自分の好きなタイミングでシフトチェンジができるのだ。
クラッチレバーは一般的なバイク同様に装着されているため、自分ですぐにクラッチを切ることもできる。
機能だけ聞くと、それって必要なの? と思うライダーも多いかもしれない。マニュアル車に慣れたライダーにとっては、半クラ操作はそんなに難しくないものだ。しかし、初めてバイクに乗った日のことを思い出してみてほしい。自動車教習所で、「クラッチを握って、ギアをいれて、ゆ~っくりクラッチを放してみてください」なんて説明されたものの、いざやってみると車体がガクンとエンストして、発進すらできない……そんな記憶がある人も多いはず(少ないわけない!)。
そしていざ発進してみても、クランクや一本橋、坂道発進など、あらゆるシーンでこの半クラが登場。そのたびにガクガクっとエンストし、バランスを崩して転び、屈辱と痛い思いが繰り返される。それは公道デビューしてからも同じで、毎回の発進をはじめマニュアル車のライダーが半クラを使わない日はない。慣れるまでは緊張感で疲れっぱなしだ(こういう話をすると、「じゃあスクーターに乗ればいいじゃない」と心ないことを言う人がいるが、乗りたいバイクがマニュアル車だったら仕方ないことだ)。
そんな緊張感のすべてが解決するというのだから、まさに「Eクラッチ」はビギナーの救世主的な新技術といえるだろう。
緊張の半クラから完全開放! 発進、減速、小回りなんでもござれ
とはいえ、こういった前知識を仕込んであっても、やっぱり私は「それって必要なの?」と思っていた。運転免許を取得してから10年近くたち、半クラで緊張していたのはもうずいぶん前のこと。今では無意識にクラッチをばしばし切れるし、発進時にエンストなんてしやしないのだ。しかし、試乗を初めてすぐに気づくのは、私が「Eクラッチ」の本当の恩恵を理解していなかったということだった。
レブル250の排気量は250cc。扱いやすいトルク特性とはいえ、パワーはビッグバイクに比べて低く、このため適当にギアを入れてポンとクラッチをつなぐとあっさりエンストすることもある。ところがEクラッチがある場合、ギアを入れてアクセルをオンすればもう走り出してしまう。
「クラッチを切る➤ギアを入れる➤半クラにする➤エンジン回転数を合わせて➤クラッチをつなぐ➤発進!」という一連の動作が、「ギアを入れる➤発進!」になるので、恐ろしくラクなスタートを切ることができるわけだ。まわりに目を向ける余裕もたっぷりで、操作に集中してあわててしまい、急発進して危険な目にあう心配もない。
しばらく走るとUターンがあった。ビギナーには苦手な人が多いであろうUターン、実は私も今もって大の苦手。しかしEクラッチでは、車体をしっかりバンクさせ、速度がのり過ぎないよう半クラを使いつつバランスを維持……という、Uターンの動作はやっぱり必要ない。車体をバンクさせて、スロットルを調整すればそれでOK。
時折エンジンの回転数が勝手に上下するのを感じるが、これはEクラッチが自動的に半クラ操作をしてくれているためで、もちろん急にクラッチが切れたり、繋がったりということはなく、全く安心感のある乗り心地。そうするとタイヤのグリップしている感覚や、車体の進行方向に注意を向けることができ、自然に今までにないスムーズなターンができてしまった。
これは交差点の右左折といった、「曲がりながら止まったりする」シーンでもことのほか実感できる。とにかくクラッチ操作に注意を払う必要がないため、周りに注意しながら自分の安心できるペースでコーナリングすることができるうえ、急に止まる必要が起きたときでも、エンストを気にせずブレーキングすればよい。まるでオートマだ! と思いつつも、シフトアップとシフトダウンはしっかりやらないと走れない。エンジンの回転数を感じつつ、コントロールする楽しみはマニュアル車そのままだ。
ハイペースな走りでは、ひたすらラインとエンジンに集中できる
Eクラッチのメリットは低速時ばかりではなく、スピードが乗った時にも感じられる。エンジンを高回転させ速度が出ているシーンでも、やっぱりシフトチェンジにクラッチ操作は必要ない。このため一気に加速したい時、ギアをひとつ落とそうという時にもストレスがなく、瞬間的な半クラが発動し回転数も落ち着く。もちろんシフトアップ時も同様だ。
このためスピーディーな巡航も非常にラクで、疲労感がほとんどないのに驚く。そしてワインディングのような、加速と減速が繰り返され、シフトチェンジを連続的にやらなければいけないシーンでは、驚くほどストレスフリーなギア選択によって、走行ラインやエンジンの回転にしっかり集中し、ライディングを楽しむことができた。レブル250はロー&ロングなクルーザースタイルのため、曲がりづらいなどと言われることもあるが、実際のところ体重移動に気をつけ、シッカリバンクさせてあげれば驚くほどの旋回性をみせてくれるし、シングルエンジンならではのトルクで立ち上がりもパワフル。実にワインディングの走行が楽しいマシンでもある。
そんな楽しさがどんなライダーでも感じることができるというのは、ほかならぬEクラッチの大きなメリットのひとつなのだ。
ビギナーもベテランも、肩の力を抜いてライディングを楽しめる最高の新機構
というわけで、最初はやや懐疑的だったレブル250 Eクラッチの魅力は、短時間の試乗でも存分に味わうことができ、大満足な体験となった。さらに当日はひどく雨が降っており、水たまりだらけのウェットな状況だったが、そんな中でもまったく気負わず小回りやUターンといった、タイヤのグリップやサスペンションの感覚を試せすことができたのは、やっぱりEクラッチによって集中力をライディングの細やかな感覚に向けることができたためだろう。
エンストが怖いビギナーにとっては、それを防いでくれる安全装置にもなり、ライディングを楽しみたいベテランにとっては、今まで以上にバイクとコミュニケーションできる助けともなる。それがEクラッチなのだ。
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