世界唯一のサイドカーブランド「ウラル」がカザフスタンに工場を新設。今まで最終組み立てを行ってきたロシア工場から車両が出荷できない状態だったが、ついに第一号車がデリバリーされた。日本にも9月末~10月末頃に便が到着する予定だ。
そして秋には2023年モデルも発表予定。不屈のブランドがよりアクティブに動き出すことになりそうだ。
文/沼尾宏明、写真/ウラル・ジャパン
【画像ギャラリー】カッコエェ! ワイルド&タフなサイドカーの詳細を見る!(4枚)画像ギャラリー伝統のサイドカーがついに生産再開、日本への第一便も8月末に出荷
ウラルは、第二次世界大戦中のソビエト連邦が製造した軍用サイドカーに端を発するメーカー。現在は「ウラルモーターサイクルズ」として米国のIMZ-Groupが経営し、世界42か国に輸出されている。世界的に見ても唯一のサイドカー専業ブランドであり、往年のフォルムとレトロな749ccOHV空冷水平対向2気筒を今に伝えていることからファンも多い。
ロシアにルーツを持ちながら、ロシアのウクライナ侵攻が始まって2日後の2月26日以降、「STOP WAR NOW」のメッセージをWebサイトで発信するなど反戦の立場を取り、話題になった。
しかし、戦争の影響により車両の新規生産が停止。大多数の部品はロシア国外で生産しているが、最終組み立てやフレーム、サイドカーのボディなどをロシアのイルビット工場で生産している。そのため経済制裁や、輸出ルートの確保が困難で出荷ができない状態だった。
そこで、イルビットから600km南東にあるカザフスタン共和国のペトロパブルに新工場を設立。ここまでの経緯は当サイトの過去記事「ロシアからカザフスタンへ――「ウラル」が工場を移転、最新状況を日本法人社長に訊いた」に詳しい。
その後の状況をウラル・ジャパンのボリヒン・ブラジスラーフCEO(以下、ブラド氏)に訊いてみると、「カザフスタンで生産された最初のバイクが完成し、8月5日、アメリカに向けて出荷されました。日本向けのバイクは8月28日頃に出荷する予定で、9月末~10月末ごろに到着する予定です」という。
世界の物流が混乱しており、船便は通常1か月以内で到着するのだが、時間がかかるようだ。日本に入荷する車両は、注文分以外に4台の在庫があり、こちらは購入可能。新規に注文した場合、オプションやカラーを選ばなければ「3~4か月程度」で入荷するとのことだ。
従来は年間1300台生産だったが、新工場では2000台生産も可能に
カザフスタンの新工場は総面積1800平米。ロシア工場のスタッフや現地で雇用した20名程度がほぼハンドメイドで車両を組み立てている。
組み立て率は徐々に上昇し、9月末か10月中旬には新工場が完全に稼働する予定という。
「元々ウラルの生産規模は年間1200~1300台程度でしたが、今後は1500台を目指します。新工場のあるペトロパブルはイルビットより大きな街なので雇用もしやすく、年間2000台生産できるポテンシャルがあります」とブラド氏。
イルビットの旧工場は、クランクシャフトや塗装部品などを引き続き生産し、それらを新工場に出荷しているが、少しずつ部品生産を他国でのアウトソーシングに移行していくという。
元々出荷数が最も多かったのは米国で、欧州、日本が続く。近頃は中国への出荷が増加しており、インドでも人気が上昇している。
2023年型はエンジン内部などに大幅なモデルチェンジを予定
この9月から2023年モデルの生産をスタートさせるのもトピックだ。
カザフスタンから日本向けに出荷される第1ロットは2022年式の最終モデル。今後の注文分は2023年型となるのだ。
2023年モデルでは、リアルクラシックな外観はそのままに、エンジン内部などメカ的に大幅な変更が施される予定。元々ロシア製だった部品がいくつか他国製のパーツに変更されるという。
価格は未定だが、参考までに2022年モデルの価格を挙げておきたい。国内向けの8月生産分から価格が改定され、最もメジャーで一番人気のギアアップ2WD Slate Greyは、270万500円~から306万3689円~と約36万円値上げに。残念な話だが、工場移転の影響というより、他の外国車メーカーと同様、急激な円安の影響が大きい。また輸送費の上昇も価格に反映されている。
「バイクで少しでも笑顔を増やしたい」、今後はイベントなども開催
今後のウラルの展望についてブラド氏に尋ねてみた。
「今後ウラルはさらにアクティブになっていきます。オフロード系イベントを開催するほか、サービスを向上し、独自のライフスタイルもアピールしていきたいです。ウラルには“何があっても諦めない。道がなくても進む”というポリシーがありますが、これを我々は行動でも証明しています。いま世界中が大変な状勢ですが、バイクで少しでも笑顔を増やせれば、と考えています」
ウラルが誕生して今年で81年。ロシアの大手自動車メーカーに比べ、少量生産のウラルは工場移転がやりやすかったとブラド氏は語るが、長い歴史において非常に大きな転換点を迎えている。
しかし生産するサイドカーのごとく、難局を乗り越えつつある。現在は米国資本ながら、ロシアがルーツであるウラルを批判的に捉える人もいるが、当初から「STOP WAR NOW」の立場を取り、ロシア国外へ生産を移管していることが多くを物語っている。憎むべきは戦争であり、決して文化ではないのだ。
生産が再開し、2023年モデルのメドまで立ったことを素直に喜びたい。
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