全日本ロードレース開幕戦 「NGKスパークプラグ」鈴鹿2&4レース
2024年3月79-10日 三重県・鈴鹿サーキット
観客動員:土日合計:3万3000人
例年よりも早く、3月上旬に開幕した2024全日本ロードレース選手権。開幕戦となった「NGKスパークプラグ」鈴鹿2&4は、4輪レースの国内最高峰・スーパーフォーミュラと、2輪レースの国内最高峰・JSB1000が同時に開催される一戦だ。
今シーズンの全日本JSBクラスは、V12を達成した中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)を筆頭に、鈴鹿8耐を2連覇中の長島哲太が、新チーム「DUNLOPレーシングチームwith YAHAGI」を結成してフル参戦をスタート、2020年のJSBチャンピオン野左根航汰が、ヤマハからホンダにマシンをスイッチして伊藤真一率いるAstemoホンダドリームSIRに移籍、さらに2017年のJSBチャンピオン高橋巧(日本郵便ホンダドリームTP)が、ST1000クラスからJSB1000にスイッチするなど、例年になく話題が満載。
その中で、何といっても最大の目玉なのが、ホンダ陣営からTeamKAGAYAMAに移籍し、ドゥカティワークスマシン、パニガーレV4Rをライディングする水野涼の存在だろう。パニガーレV4Rは、スーパーバイク世界選手権の日本開催がない今、もちろん日本初上陸。ドゥカティ製ワークスマシンがワークスチーム以外の手によって運営される例は、おそらく初めてのことだろう。TeamKAGAYAMAがドゥカティにマシンをスイッチするというニュースが流れて以来、2月終盤のプレシーズンテストで初公開されたが、一般のファンの前で走るのは、正真正銘このレースウィークが初めてだ。
フリー走行:水野はプレシーズン以来のパニガーレ乗り込み。総合トップタイムは長嶋哲太がマーク
開幕戦ということで、通常より1日早く木曜から始まったフリー走行は、両日とも午前午後2本ずつの計8セッション。各チームやライダーにとっては、まだまだ2月下旬のプレシーズンテストに続いての走行だけに、ニューマシンのシェイクダウンや、この時期特有の低い気温と低い路面温度へのタイヤチョイスやセッティングと、テストメニューは盛りだくさん。
そのフリー走行で、初日・木曜日の総合トップに立ったのは、絶対王者の異名をとる中須賀克行。しかし2番手に長島哲太、3番手にこのレースへヨシムラSERT MOTULからスポット参戦する渥美心、4番手に中須賀のチームメイトである岡本裕生、5番手にもスポット参戦の渡辺一樹(TOHOレーシング)、そして6番手に水野涼。水野にとっては、プレシーズンテストで初乗りしただけのパニガーレへの、貴重な乗り込みの時間だ。
2日目・金曜の総合結果では、このレースがJSBクラスへのデビュー戦となる長島がトップタイムをマーク。2番手に水野、3番手に岡本、4番手に中須賀、5番手に渥美、6番手に渡辺と、このあたりが徐々に仕上がりつつある状況に見て取れた。
そして土曜には公式予選が予定されていたが、予選開始時刻直前に降雨があり、気温も路面温度も低いことから、「天候および路面の状況を鑑み」(鈴鹿2&4公式通知より)予選セッションが中止されてしまう。
これで、レースへのスターティンググリッドは金曜のフリー走行の結果によって決められ、ポールポジションは長島哲太、2番手に水野涼、3番手に岡本裕生という顔ぶれのフロントローとなった。
決勝レースが行なわれる日曜日には、晴天ながらまだまだ気温が低く、朝のフリー走行の時間帯では路面温度も10℃前後と、スーパーフォーミュラ勢はもちろん、JSBにとっても厳しい条件。フリー走行の結果では、長島がトップタイム。2番手に中須賀、3番手に渥美、4番手に水野と、やはりこのあたりがレースをリードしそう。ちなみに3月初旬の朝9時、気温10℃前後のコンディションでの長島のタイムは2分05秒935という驚異的なもの。フリー走行でタイムアタックはしていないとはいえ、2番手につけた中須賀よりも0秒5以上も速い。
「ダンロップタイヤの特徴は早いウォームアップ性。3月初旬の低い気温に合わせてタイヤを開発して準備してきたので、公式予選が中止になったのは残念でしたが、今まで全日本ロードレースでブリヂストン勢に対して劣勢だったダンロップでポールポジションを獲って、今年のダンロップは違うぞ、というところを見せられたと思う」と長島。決勝レースでも、そのウォームアップ性を生かして、スタートから逃げる戦略をとるものだと思われていた。
決勝レース:激しいトップ争いは赤旗中断 開幕戦は中須賀が押さえる
決勝レースの時間帯には陽が当たり、このレースウィークでは最良のコンディション。スタートでは水野がロケットスタートを決め、記念すべき24年開幕戦のホールショットを獲得。2番手に中須賀、3番手に長島がつける中、長島がS字入り口で中須賀を、逆バンクで水野をパスしてトップに浮上。これが長島の言うブリヂストンタイヤのアドバンテージだ。
しかし、その長島を逃がさないのが水野と中須賀。2周目のメインストレートでは、水野がパニガーレV4Rのストレートスピードを生かしてトップに浮上! あまりの加速の鋭さにメインスタンドの観客が沸いた瞬間だった。
2周目は水野→長島→中須賀が等間隔にいるトップ争い。バックストレッチでは、やはり水野がパニガーレV4Rのトップスピードを生かして2台を引き離す展開。4番手以降には渥美、岡本、野左根、津田拓也(オートレース宇部レーシングチーム)がつける。このトップ7のニューマシンや新体制で走っているライダーは4人もいるのだ。
トップ集団が3周目に差し掛かる頃、後方で転倒車があり、レースは赤旗中断。再スタートでは、周回数の減算なしで14周での再レース。ここで全ライダーとも新品タイヤへの交換は許されていたが、トップ集団のうち長島は、決勝用タイヤのスペアが用意されておらず、ユーズドでの出走となってしまった。
再スタートでは、レース2に向けて赤旗中断前と違うタイヤをチョイスした岡本が好ダッシュを見せるものの、長島の伸びが勝り、ホールショットを獲得。中須賀が横に並びかけ、岡本が3番手、その後方に水野、渥美、岩田悟(チームATJ)、野左根という顔ぶれでオープニングラップがスタート。
しかし、ここでまた水野が圧巻のトップスピードを披露。4番手で入ったバックストレッチで、岡本、長島、中須賀の順に3台を一気にパス。この時のトップスピードは、1周目にもかかわらず309km/hをマークしていた。
水野がトップで2周目へ。赤旗中断前にはこの2台にくらいついていた長島は、ユーズドタイヤのためかペースを上げられず、トップ争いは水野と中須賀の一騎打ち。3番手を長島、岡本、渥美が争い、4周目には岡本が長島を逆転して3番手へ、渥美も長島をパスし、順位が落ち着いていく。
水野と中須賀のトップ争いは、ストレートスピードでは目に見えて水野が速いものの、中須賀はコーナー区間で背後にピタリ。このあたりは、熟成を極めたチャンピオンマシンYZF-R1と、シェイクダウンからわずか10日足らずのパニガーレV4Rとの差。レースが折り返しを迎えるころには、中須賀がスプーンで水野を逆転。今度は中須賀→水野の順で周回を消化していくことになる。
レースは残り5周。中須賀の背後で終盤の逆転を狙う水野、という展開の中、岡本をもパスして3番手を走っていた渥美が転倒、ここでセーフティカーが介入し、3番手に浮上した岡本、4番手の長島と、上位陣の差が一気に縮まることになる。しかし、ここでセーフティカー介入中に転倒車が出たことで、赤旗が提示されてこのままレースが成立。いちど熱が入ったタイヤが、セーフティカーによって低速走行を強いられて冷えてしまうことで、残り3~4周のリスタートでは危険と判断されての赤旗中断だったようだ。
これで開幕戦優勝は中須賀。2位に水野が入り、岡本が3位表彰台を獲得。水野とともに大きな注目を集めた長島は4位と、全日本ロードレースで劣勢続くダンロップタイヤでは上々の結果といえるフィニッシュだった。
中須賀克行は「新しいライバルがたくさん現われて、それを迎え撃つ自分もしっかり準備しなきゃ、というプレッシャーのあった開幕戦でした。長島君が最初の周から速いのは分かっていたけど、ドゥカティの水野君はどれだけすごいのかわからない中で、自分の強みを出せたレースになりました。
パニガーレV4Rは、つい先週に初走行しただけのはずなのに、もうこんなに速い! この短期間でここまでマシンを仕上げたチームカガヤマのチーム力はすごいし、水野君みたいなスピードのあるライダーがアッという間に乗りこなしているのもスゴいこと。でも、最高に楽しい開幕戦でした」と語った。
TeamKAGAYAMA選手&監督コメント
水野涼
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