路線バスを使った日本全国の旅は、テレビ番組などでは人気のテーマ。それとは対照的に、実際にやってみようと考える人はあまり多くない気がする。どうしてだろうか?
文・写真:中山修一
(荷物と路線バスにまつわる写真つき記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■旅に不可欠なアレがネックに?
他の公共交通機関に比べると、些か地味な印象を拭いきれない路線バスの旅……電車のほうが好きとか、バスだと行程組むのが大変すぎるとか、そもそも路線バスで移動なんて考えすらしないとか、理由は色々並べられそう。
そんな中、殆どの人が旅をする上で不可欠となる“例のモノ”が、大きな障壁となっているのでは? という説が浮かび上がってくる……それは荷物だ。
旅と荷物……ではまず、客観的に見て世間一般の荷物事情がどうなっているのか、旅行関係の話題を提供する各商用サイトを参考にしてみよう。
それらによれば、旅の荷物を大きさで表すとしたら、確たる平均値はないようだが、あくまで目安として「1泊あたり10L」なのだそう。
さらに、途中で貰ったり買ったりして物が増えることを考えると、少なくとも30L分くらい確保しておけば安心、とある。
■規定上はクリアしているけれど……
何泊するかまで要素に含めると話がややこしくなってしまうので、単純にこの30Lの荷物を選んだ場合の姿形はどうなるか……旅行関係のサイトで真っ先に勧めているのが、キャスター付きのキャリーケース。
30Lほどの大きさは、飛行機の機内にそのまま持ち込んで、荷物棚の中に収められるくらい、といったところだ。
旅のプロが自信をもって勧めるほどの便利さを備えた収納運搬容器=キャリーケースと言えそうだが、ここでは路線バス旅のお供をキャリーケースにした場合、快適な道中が約束されるかが最大の焦点になる。
路線バスにも種類がある中、高速バスをはじめ、ハイデッカータイプの大型車両を使ったバスだけで移動するなら、これはまったく問題ない。
なにしろハイデッカー車には客室の下に大型のトランクルームが大体付いているため、キャリーケースならそこに放り込んでおけば、後はラクラク。
一方で高速道路に乗らない、路線バス仕様のワゴン車やマイクロバス・大型車を使った一般路線バスを見ると……これが残念ながら、機内持ち込み対応のキャリーケースでも正直ちょっとキツい。
一般路線バスではキャリーケースの類はサイズオーバーなので持ち込み不可、というワケでは決してなく、持ち込み自体はできる。
しかし一般路線バス仕様の車は、大きな荷物を置いておける専用スペースを想定していないものが大多数を占めるのがキツさの理由。
キャリーケースに限らず、キャスターの付いているカバンの類は全滅と思っておくのが無難かもしれない。
■バスのほうが居場所を選ぶ
とりわけ、最近の主流である2000年代後半から普及し始めた、バリアフリー対応のいわゆる標準仕様ノンステップ車と、キャスター付き荷物との相性が、どうしてこうなっちゃったの? と首を傾げたくなるほど本当によろしくない。
車両の前〜中扉あたりまでのバリアフリー対応エリアの床面なら、何とかキャリーケースを置いておく余地はなくもない。
しかし、バリアフリーエリアよりも後ろや、バスを扱ったテレビ番組等でおなじみの最後部の横長座席(通称ワルシート)となると、脚と前の背もたれの間にケースを挟めるほどシートピッチに余裕がなく、シート間の床面が凸凹。
通路もバリアフリーエリアに比べると極端に狭くなるので、常に置いておくと憚りを感じる上、ケースが転がったり倒れたりしないよう監視の目を欠かせず、気が休まらないハズ。
以前、50kmほどの距離を走るローカル路線バスで、大きなキャリーケースを持ったお兄さんが途中から乗車するも、ちょうどバリアフリーエリアの席が全部埋まっていた。
空いていた非常口座席に座るも上記の通路の問題がリアルタイムで浮き彫りになって、やむを得ずキャリーケースをシートに押し込むも非常に不安定。
所要時間が長いため寝ようにも、本人の身体を治具にして、荷物を固定させたままポジションを掴むのに超絶難儀していた様子。
バリアフリーエリアのお客さんが降りていって空きができた後も、場所替えは面倒だったと見えて、最終的には宇宙飛行士のような姿勢で寝ていたのを目の当たりにし、大荷物と路線バスがいかに水と油の関係かを痛感させられてしまった。
荷物の置きやすさに関して言うなら、もしかすると今のバリアフリー標準仕様車よりも、昔のツーステップ車のほうが有利だったかも。なにしろアレ、乗るまでは大変だけれど、一度乗ってしまえば床面フルフラットだもんね。