日常に使う路線バスにせよ、長距離の都市間を結ぶ高速バスにせよ、いやバスに限らずあらゆる公共交通機関において、日本では比較的柔らかい座席が好まれる傾向にあるのでは、と筆者の個人的な印象を受ける。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
■柔らかいのが日本式?
以前、座面クッションが薄い電車が酷評されたこともあった。長距離の都市間はさておき、普段街中で乗る路線バスも、たいていは座面が厚く、柔らかい印象だ。
こうした硬さについては、個人の印象・感じ方という抽象的な尺度でしか語れないため、人によっては「そんなことはないだろう」と感じる人もいるかもしれない。
が、とにかく日本のバスや電車の座席は、いつも感動するほど柔らかいと、普段外国で生活している筆者にはそう感じる。
そもそも、日本の路線バスで使われる座席の素材は、ほぼほぼモケットや合皮などが使われているので、肌触りからしてまず心地が良い。
■海外は硬いのが中心
すべてとは言わないが、都市近郊で使われている交通機関の座席は、ヨーロッパならプラスチックを採用している都市が多い。北米やアジアなどは、バスはプラスチック、地下鉄などは金属製のベンチが使われているような国もある。
過去、何十年とヨーロッパ各都市の交通機関の座席を見てきたなかで、プラスチックが主流となりだしたのは、おそらく80年代から90年代にかけてではないか、と思っている。
それまで合皮やビニールだった座席の素材が、ある時からプラスチックを多く見かけるようになり、なんだか硬いし、特に冬場は冷たいな…という印象だった。
ただ、それですべてプラスチックに切り替わったと思ったら、途中で座面だけモケットを張ったクッション付きにしたり、素材を合皮やモケットへ戻したり、という都市もある。
もしかしたら、いくら短時間といえども乗り心地が悪いと、乗客から苦情の声が上がったと考えられなくもない。
とりわけ都市交通において、せいぜい数十分という乗車時間の乗り物において、座席に多少でもコストを掛けるのはどうか、というのは分かる。
おそらく、プラスチック製が一番コストが安いうえに、軽量でメンテナンスもしやすく破損もしにくい、という事業者側の都合もあることだろう。
■日本とヨーロッパの高速バスのシートの違い
では、都市間高速バスはどうか。近年はコストを大幅に下げ、超格安の高速路線バスがたくさん走るようになった。
数百キロの距離をわずか3000円弱くらいで運行している会社もあり、採算は大丈夫か、運転手に過酷なノルマが課されていないか、など少し心配になるほどだ。
筆者が試しに利用してみた東京〜福島の路線は、シートピッチこそかなり窮屈で、身体が大きい筆者は足の置き場にも困ってしまう詰め込み設計だったが、シート座面は柔らかく、まあまあ快適だったのが強く印象に残っている。
■まさに「悲惨」とはコレのこと
これがヨーロッパになるとどうか。今や若者の強い味方として注目されているフリックスバスは、スーパーハイデッカー車で60名以上、ダブルデッカー車で70人以上の収容力を誇る。
その詰め込み設計こそが収益を生み出す原動力なのだろうが、シートピッチはともかく、座席が「悲惨」という言葉しか見当たらない。
何度も繰り返すが、座面の硬さや広さなどの感想は、個人の感覚に由るものが多く、筆者の意見が万人の意見ではないとお断わりした上で、身長180センチの身体には全く合わない。
リクライニングはするが、座面はフラットなのでお尻がずれ、姿勢が悪くなり身体中が痛くなってくる。特に座面は、滑りやすい合皮で座布団が薄く、30分もすると足が痺れてきて何度も身体の位置を直す。
1時間もすると時計を気にしだし、2時間では痛みと苦痛に耐え、3時間後に下車したときにはホッとする。
一度、夜行路線に10時間以上乗車したことがあったが、翌日は体調を崩し、1日寝込んでしまった。夜間移動の効率性は、まったく通用しなかった。




