■大事な事故原因の特定は?
事故による民事・刑事・行政の各処分や責任は前述の通りだが、事故後に大切なのは同様の事故をなくすために原因を調査して必要な措置を行うことだ。
海の場合は従来は海難審判庁が行政処分とともに行っていたが、現在は事故の調査部分を鉄道・航空事故調査委員会とともに再編された、運輸安全委員会が鉄道・航空・船舶事故の調査を行う。目的は事故の原因究明と再発防止に置かれているので、当事者を処罰するものではない。
これは国際条約でも取り決められていて、事故調査により得られた証言等の目的外使用は禁止されている。しかし日本では調査報告書が刑事裁判の証拠として提出される例があり、事故原因の調査に支障をきたす恐れがあることが指摘されている。
■自動車の事故調査は?
一方で、自動車の事故調査はかなり限られた範囲内で行われている。実際の調査は事業用車両(緑ナンバー)のみを対象としており、それも重大な事故や社会的影響の大きい事故に限られるのが実情だ。
事業用自動車事故調査委員会がそれで、国土交通省の外局である運輸安全委員会とは異なり、独立した機関であるため調査に必要な権限がほとんどなく国土交通省の職員を帯同してその監査権限のもとで調査を行うことが多い。
どこで起きた事故でも、調査機関が事故原因を解明し、必要な勧告を必要な機関に提言する。事故件数で言うと自動車事故が最も多いのは事実だが、似たような事故が続いて起こる場合も多く、旅客輸送を行うバスや貨物輸送を行うトラックに対して勧告や提言が生かされているとまでは言えないとの指摘もある。
■バスならではの特殊な事情
バスが事故を起こしたニュースというと、いわゆる交通事故を想像しがちだが、車内での転倒等の乗客の事故も人身事故と同様に扱われるので、バスの外で事故がなくても車内事故でも交通事故だ。よって民事・刑事・行政の各責任を問われる。民事責任や行政処分が報じられることはほとんどないが、刑事処分はよくニュースになる。
例えば過失運転致死傷罪として処断された場合は7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が法定刑だ。過失とはミスのことで、懲役と禁錮の違いは刑務作業の有無で、それがない禁錮刑の方が同じ刑期だと軽いとされている。
例えば人が急に飛び出してきて急ブレーキを踏むと強力なエアブレーキの力でバスは停車できるので、いわゆる交通事故にはならずに済むかもしれない。しかし、車内に立席乗客がいるとほぼ必ず転倒するだろうし、高速車や貸切車でシートベルトをしていない乗客だと最悪の場合、車外に投げ出される。
それほどエアブレーキは強力なのだ。結果は車内事故が発生して人身事故となる。誤解を恐れずに問うと、仮にあなたが運転士だったらどう判断するか、究極の選択と言える。
■人数の問題ではないバス運転士の責任
1回の事故で発生する死傷者数でいうと、一般論では航空>船舶>鉄道>バス>タクシーの順で自動車の方が圧倒的に少ない。しかし事故発生数はこの逆だ。道路には管制されていない不特定多数の交通が行き交っているからだ。
命の重さは一人でも千人でも同じだ。現在のバス運転士が背負っている責任と待遇の格差問題は各方面から懸念が出されているが、最後に統計を示しておく。運転や操縦免許の取得の難易度や苦労もあるので、実際には金だけの問題ではないが、金銭に換算するしか評価のしようがないので議論の対象として比較していただきたい。
定期運送用操縦士免許を持つ旅客機の機長はキャリアの形態により異なるが1000万円弱~1500万円以上とされる。海技士の資格を持つ船長の年収は年齢や船の大きさや航路により異なるが、ざっくりした平均では700~900万円でクルーズ船等の大型客船クラスになると、さらに倍以上だろうか。
バス運転士の場合は雇用形態や事業者によりかなり幅が広く、平均年収はあまり意味をなさないが、正社員の場合で250万円弱~600万円以上だ。
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