2022年9月に発生した通園バスへの子供の置き去りによる死亡事故は大きな社会問題となった。これを受けて幼稚園や保育園の送迎に使われる園バスに安全装置を設置することが義務化されたことにより、国土交通省が12月20日に装置の仕様を定めたガイドラインを公表した。
しかし根本的な解決は安全装置の設置ではできない。いかにヒューマンエラーをなくすか、そのヒューマンエラーを惹起する要因をいかに解決するか、人の命を預かる自動車の運転を仕事とする者みんなが考えなければならない。
(記事の内容は、2023年1月現在のものです)
文・写真/鈴木文彦
※2023年1月発売《バスマガジンvol.117》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より
■車内置き去りはなぜ起こったのか
今春から、幼稚園・保育園などの通園送迎バス(以下「園バス」と表記)に園児の置き去りを防ぐための安全装置の設置が義務化される。国土交通省は2022年12月、安全装置のガイドラインを発表した。
きっかけとなったのは言うまでもない。2022年9月に静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で3歳の女児が送迎バスの車内に置き去りにされ、死亡した事故だ。
前年の7月にも、福岡県中間市の保育園の送迎バスに5歳の男児が取り残され、熱中症で死亡している。そのときも大きく報道されたが、教訓は全く生かされなかった。
牧之原市の事件の要因としてこれまで報道されているのは、園バスを運転していた同園の理事長が、園児が降りたあと車内の確認・点検をしていなかったこと、クラス担任は女児の不在を「欠席」と考えて保護者に問合せをしなかったことなどのミスの複合ということだ。
いわば怠慢や思い込みによるヒューマンエラーが事件を招いたということである。
さらに牧之原市のケースは専任の運転者ではなく、通常は運転しない理事長が代わりに運転したということのようなので、なおさら“素人がやらかした”感が強い。
■ここでも横たわる人手不足の問題
自家用とはいえバスに絡んだ事件なので、取材などで営業バスの現場に伺ったときの雑談の話題にのぼる。
その時プロが口をそろえるのは「たかだか5~6人の子供が乗っていただけで、しかもハイエースのような小さくて見通しのよい車なのになぜ見落とすの?」ということで、プロからすればあり得ないミスなのだった。
「ドライバー以外に先生(保育士)は乗っていなかったの?」というのも多くの人が疑問に感じたことだろう。園バスといえば幼稚園教諭や保育士が添乗するのが自然な光景だからだ。
だが保育現場の現実はバスの現場同様、深刻な「人手不足」。保育士の配置などには国の統一基準があるが、送迎サービスは施設と家庭間の私的契約との位置づけで、運転手や添乗者に統一基準はない。いきおい、人手が足りなければ添乗の省略や本来の運転担当以外の者が代わりに運転することもありうるという。