ドバイは近年急速に発展した中東屈指の経済・観光都市で、アラブ首長国連邦(UAE)に属するドバイ首長国の首都でもある。UAEでは首都アブダビ(アブダビ首長国)を凌ぐ114万の人口を誇る。
ただし、UAEは非中東系移民の国籍取得が難しいため、就労許可によって居住する人々を加えるとこの数字よりもはるかに多くの人々が暮らしている。また、年間約1500万人の観光客が世界各地から訪れている世界有数の観光都市でもある。
日本でも、世界最大の高さ(828m)を誇る高層ビル、ブルジュ・カリファや、リゾートホテル・コンドミニアムが立ち並ぶ人工島パーク・ジュメイラなどはよく知られているところだ。公共交通機関は近年の都市発展に合わせ計画的に整備され、先進的かつデザインも凝った、なかなか興味深いものがある。
(記事の内容は、2019年1月現在のものです)
取材・執筆・撮影/石鎚翼
※2019年1月発売《バスマガジンvol.93》『Bus Magazine in Overseas』より
■環境問題による脱石油を目的に公共交通機関の整備が進む
中東各国は、大量の石油を産出することから燃料が安価で、長らく自動車を中心とした交通体系が続いていた。国土が広いサウジアラビアやイラクでは、鉄道も敷設されているが、旧態依然のシステムで運用されていることが多い。
しかし、ドバイやカタールなど、急速に発展し、人口密度が増加した都市では、渋滞や環境汚染などが次第に問題視されるようになり、近年になって、都市鉄道の整備が進められている。ドバイでも現在2路線のメトロ(都市鉄道)のほか、路面電車、モノレールが運行され、市民や観光客の足として活躍している。
一方、ドバイには郊外あるいは隣接する都市への鉄道は存在しないため、長距離の陸上公共交通はバスしか存在しない。そのため、シャルジャやアブダビといった隣接する首長国の都市に向けて、長距離バスが多く運行されている。
また、市内ではメトロのフィーダー路線として多くの市内バスが運行されており、市内交通の主役として活躍している。
市内の公共交通機関と道路はRoads and Transport Authority(RTA)によって運営される公営である。ドバイ市の自動車保有率は、ニューヨークやシンガポールといった世界的に稠密な大都市と比べても高く、渋滞の削減と公共交通ネットワークの充実が急がれている。
ところで、ドバイの気候は大変厳しく、夏季の最高気温は50度に達することも珍しくない。さらに砂塵を舞い上げる砂嵐が都市中心部を襲うこともある。
そのため、市内のバス停の約半数には空調付きの待合室が用意されている。また、メトロとモノレールの駅は改札外のコンコースやプラットホームも含め完全空調である。路面電車の電停も外気と隔絶した空調空間となっており、高い快適性を誇っている。
しかし、こうした快適性が担保されないと、自動車からの利用移転はなかなか難しいという問題がある。ところで、これらの空調設備はもちろん大量の電力を消費するが、現在ドバイ首長国では石油から原子力への発電方式変更を進めている。