クルマの走行中、雨が降り始めると用心棒のごとく先頭に立つのがワイパー。ごく当たり前に付いているパーツであるが、このワイパーができたのはいつ頃だろうか?
文・写真(特記以外):中山修一
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■水滴を追い払う便利な棒
世界で初めてワイパーが発明された場所はアメリカとされる。誰が最初に思い浮かんだのか、今となっては皆目わからずじまいであるが、特許が取られた時期を元にすると、ごく初期のものは1896年まで遡る。
当時はまだ自動車の黎明期であり、パテント図面を見ると、このワイパー(呼称はウインドウクリーナー)は主に路面電車の前面ガラスへの実装を想定していたようだ。
駆動ユニットの上端に設けた回転軸と、棒(今で言うブレードに相当)の端を繋ぎ合わせ、時計回りに340度くらい棒をスイングさせて元の位置まで反時計回りに戻る、というもの。電源の確保が容易な路面電車ということで電動式であった。
フロントガラスに付いた水滴を、ガラスに密着させた棒で押して、視界を遮らない位置まで除ける原理自体は今とほとんど変わらず、19世紀の時点ですでに確立していたわけだ。
■当初はバキューム式が主流
自動車向けのワイパーでは、1921年に取られた特許が現代の姿にかなり近い。フロントガラスの上に駆動装置を取り付け、ワイパーのアームとブレードを吊り下げるスタイルだ。
当時は手動ワイパーも多数発売されていたが、21年の特許は自動式。エンジンが空気を吸い込む力(負圧)を利用して駆動させる、バキューム式と呼ばれる仕組みであった。
バキューム式のワイパーはその後主流となり、世界で広く使われるようになった。自動車に電動ワイパーを初めて実装した例は1917年と言われているが、バキュームから電動へとシフトしていったのは1950年代以降のようだ。
■片側だけでも大丈夫!?
日本での自動車用ワイパー事情を少し覗いてみると、1920年代の時点でワイパーの装備を義務付けている地域が多々見られる。
日本語で書くと「前面硝子拂拭器(“拂”は当時の表現)」。安全に関わるパーツであるため、早い段階から普及していたと思われる。
寄稿媒体が『バスマガジンweb』ということで、ここからはバス車両のワイパーに注目したい。戦前〜昭和20年代の車両の写真を何点かチェックしてくと、やはり吊り下げ式が目立つ。
さらに、運転席側のみワイパーを装備していて、助手席(バスにはないが…)側のフロントガラスには付いていない車種もごく普通にある。