バス運転士の不足が一層深刻になっている。減便や路線廃止は言うに及ばず、曜日で路線バスそのものの運行を取りやめてしまう事業者まで出ている。人不足は日本経済の中でなにもバス運転士に限ったことではないが、2024年問題と重なり運輸業界全般が危機に陥っている。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■人はいるがなり手がいない
確かに日本の人口は減少に転じている。しかし働く者が一気に減少していなくなってしまったわけではない。ではなぜ人はいるのにバス運転士のなり手がいないのだろうか。
一般的に言われるのは待遇の悪さだ。拘束時間にしろ、賃金にしろ、いずれも生活できるレベルではないとの愚痴が現役運転士からは聞こえてくる。ただし、それは一方的な主観であり人により状況は異なることには注意を要する。
賃金が安くて家族を養っていける状況にはないという立場の方もいれば、独身で生きていくにはさほど苦労はしていないという方もいる。ただし平均の年収を見てみると決して高給取りではなく、平均以下である場合が多いのは事実として認識しておきたい。
SNSの発達で世に聞こえてくるのは概して不満の方が多いので待遇が悪いにしても、それは客観性を担保するものではないという点には留意が必要である。
■それでも放置した業界が状況を悪化させた?
昔はバス運転士と言えば、高給取りとまではいわないまでも、地元の大企業で安定した高収入の域に間違いなく達する職業だった。現在のように待遇が悪くなったというよりも、30年以上前の状態のまままったくアップデートされずに放置されてきたということなのだろう。
多くのバス事業者がそうであるように親会社である電鉄会社から(電車とバスの賃金体系を変えることにより)人件費を抑えるために切り離された。
一方、公営では公務員の好待遇が景気低迷のために無責任に叩かれ、軒並み人件費だけが低く抑えられた。本来は民間の誘導しなければならないはずの公営バス運転士の賃金が、最も重要な待遇において軽視され続けたのは悲劇でしかない。
■公共交通機関の重圧に潰された?
最近では運転不足が大々的に報じられSNSで暴露されても、もはやバス業界には改善する体力はなく、公共交通機関という重圧だけで事業を続けてきた。
それはそれで仕方のないことだが、放置している間に「バス運転士」という職業の暗いイメージが一般に定着してしまったのも悲劇だった。賃金は安い、拘束時間が長い、自分の時間はない等々の事実かもしれないが客観的な検証のない噂話や、都市伝説的な話までがバス運転士のイメージを決定付けてしまった。
■今こそみんなで負担を!
このような複雑な状況の中で、悪化する労働環境を放置した事業者や親会社の電鉄会社、無責任な市民感情に流されて低い方向に誘導してしまった公営事業者が所属する自治体や地方議会議員にも責任はある。
しかしながら今さら犯人探しをしても意味がないのも事実で、公共交通機関たらしめるバスを守るために運賃の値上げ、自治体や国の公的支援、燃料や車両登録や維持にかかる税負担の減免等々の多方面からの支援を一気にやりまくることでしか、バスの再生はないように思える。
地方行政や地方議会、国政や法整備にかかる責任は選挙で問えるので、有権者としての判断で構わないと思うが、今すぐにできる支援は効果の検証は後回しにしてでもやるべきだ。
それらの支援はまずは運転士の確保と現役運転士の待遇改善に使用するべきで、民間企業であれ公営企業であれ法律を整備してでも介入するべき急を要する内容だ。