本数が極端に少ない限界系バス……。それはなにもローカルな路線バスばかりでなく、人口が密集する街中にだって、人知れずひっそり走っていたりする。そんな限界系パスの中でも特にインパクトがある路線を紹介する。
文・写真:中山修一
(南01系統の写真付き記事はバスマガジンWEBもしくはベストカーWEBをご覧ください)
■神奈中バス「南01系統」が走る場所
神奈中バスが運行する「南01系統」は、横浜市旭区にある人口およそ1万4千人の街・若葉台団地の交通拠点「若葉台中央」バスターミナルと、東急田園都市線の「南町田グランベリーパーク駅」を結ぶ一般路線バスだ。
最も注目すべきはバスの本数。1時間おき、3時間、まさか1日1本!? そのレベルを遥かに下回る、驚きの1週間に1本だ。より正確に述べれば日祝の運行で、祝日がある月は便数が若干増える。
各鉄道路線の駅まで数キロ離れた、若葉台の公共交通機関はタクシーと路線バスのため、若葉台中央を発着するバスの数は膨大。しかしここまで便数が少ないのは南01系統しかない。
■今と昔で違っていた最寄駅
もはや利便性などという言葉から遥か遠くに離れた存在の南01系統であるが、路線が開設された当初から日祝限定運行だったわけではない。
現在、若葉台発着のバス路線で最も多く出ているのは、東急田園都市線の青葉台駅まで行く、横浜市営バスの23・55・65系統ほか東急バスの青23系統だ。
ただし、若葉台団地ができた1979年時点では、市営バスが運行していた路線はJR横浜線の十日市場駅止まりで、青葉台まで行かなかった。
そのため、当初は若葉台から比較的距離が近く、バスが通れる道も整備されていた南町田駅が、東急田園都市線の最寄駅になっていた。
■最古のバス路線
今では考えられないが、南01系統は元々、渋谷方面へ向かう際の主要アクセス手段だったのだ。本数も15〜20分おきくらいに1本あったはず、とは当時を知る地元民から聞いた話だ。
また、若葉台中央バスターミナルは分譲開始から数年後にできたため、始めのうちは始発/終点が別の場所にあった「若葉台折返場」だった。折返場の跡地はゲートボール場に変わり、40年以上経った今も大して変わっていない。
団地が誕生したごく初期の段階から運行されていたという点で、南01系統は若葉台を発着する最古のバス路線でもある。
■バス延伸で状況が一変
第一線で活躍していた南01系統も、1981年に横浜市営バスの十日市場駅行きが青葉台駅まで延伸すると、全ての列車が停まる青葉台駅のほうが便利ということで、ほとんどの田園都市線利用者が青葉台行きに流れた。
その結果、南町田行きの利用者が減少、すっかり閑散路線へと変わってしまった。それなりにあったバスの本数もだんだんと数を減らしていき、1日1本、土曜運休、そしてとうとう“週1”の悟りを開くまでに至った。
過去を振り返ってみると、南01系統が主要アクセス手段だったのは正味2〜3年といったところで、地元の足として輝いた“現役”の期間はごく短かったと言える。
■45年目の南町田行き
2024年現在、若葉台中央〜南町田駅を結ぶ神奈中のバス路線が運行を始めて、少なくとも45年目を迎えた。現在の日祝のみ運行に変わったのは2017年頃からで、その前は平日にも1本あった。
週1でも廃止しないのには理由がある。一旦路線を廃止して営業免許を国に戻してしまうと、もし将来その路線が再び重要視されるようになり、バスを復活させようとしても、免許を取り直すのに苦労するためだ。
そういった、廃止するわけにも行かず、最低限の本数に絞った上で(形だけ)走らせているバス路線のことを、俗に「免許維持路線」と呼ぶことがある。南01系統の場合、どこからアプローチしてもゴリゴリの免許維持路線だ。