これはアカンやつや!
その中でもひときわ厳重に管理されているのがケシ栽培区域だ。二重鉄柵で侵入センサーや監視カメラが並ぶ物々しい区域で、近寄りがたい空気が漂う。しかし大型連休後はケシの開花時期でもあるので、外鉄柵を開放してこの期間だけは鉄柵1つ越しに見ることができる。
ケシは品種により、「あへん法」または「麻薬および向精神薬取締法」により、国の許可なく栽培が禁止されている植物である。理由はアヘンが取れるからだ。アヘンは精製するとモルヒネになり、塩酸モルヒネや硫酸モルヒネという医薬品になる。最上級の鎮痛薬であり、がんの疼痛に利用される等なくてはならない医薬品だ。
しかし、アヘン戦争や薬物乱用問題で歴史的に悩まされ続けた人類は、条約や国内法で厳しく制限しているが、モルヒネは必要な医薬品であることもまた事実だ。
そのため絶滅させることはできず、東京都薬用植物園では研究のために国の許可を得て厳重な管理の下でケシを栽培している。その美しい花を見てもらい、薬物に関する啓蒙を深める目的で外側鉄柵を限られた期間のみ開放している。
植えてもよいケシとダメなケシ
ケシと言ってもオリエンタルポピーやひなげし等、アヘンが取れないケシは栽培して構わない。しかしその見分けが難しく、例年誤って混入した禁止対象のケシが出回ってしまったり、道端に飛んできた種子が落ちて発芽、開花してしまったものが見つかる等の事例がある。
ケシは繁殖力が強くどこにでも自生してしまうため、例えば航空機の車輪に種子が付きギアダウンした時に地上に落ちて発芽してしまう例が実際にある。そのため東京都薬用植物園では鉄柵を利用してパネル展を行い、禁止ケシの見分け方を解説している。その内容はケシの花を含めて、すべて画像ギャラリーに収めてあるのでご覧いただきたい。
伝統的なアヘンの採り方
ケシの花は美しいが、アヘンが取れるのはその後である。花が散った後に現れる未熟な果実(ケシ坊主という)にヘラで傷をつけると白色の乳液が出てくる。空気に触れ傷つけた筋は黒く変色するが、この乳液を採取したものが生アヘンである。
それを精製してアヘン、モルヒネ、ヘロインになっていく。時期にもよるがケシ坊主に傷がつけられ生アヘンを採取した後の様子を見ることもできる。概ね花が散った後だ。
現在では工業的に化学処理をして効率的にアヘンを採取するようだが、東京都薬用植物園では伝統的なへらかきによる採取を行って研究対象としている。
「けしつぶ」のようなケシの種
このケシ坊主が枯れると中に詰まった小さな種子があたり一面に飛び散る。この種子が「けしつぶ」にような、と表現されるケシの種で、あんパンや七味唐辛子に入っていて日本人にはなじみ深い。
なお、ケシの種子にはアヘンはほとんど含まれていないため、日本では法律による規制の対象外だが、発芽しないように処理したうえで流通している。国によってはケシの種子も麻薬指定されているところもあるので、そんな国にあんパンをかじりながら航空機を降りると逮捕されかねないのでご注意を。
ケシの横には草が!
ケシの横にはいわゆる大麻草が植えてあった。例年ではまだ植えられておらず見ることはできなかったが、今年は発芽して間もない小さな大麻草を見ることができる。アサは大麻取締法により栽培は免許制になっている。
これは研究用としての側面もあるが、麻の繊維が伝統的な工芸品等に利用されるからである。大麻草は夏ごろに茂ってくるが、研究後はすべて焼却され鉄柵内の穴に埋められ廃棄される。
コメント
コメントの使い方