■苦肉の策で障害物を設置?
そこでメーカーでは最後尾中央座席にバカでかい肘置きのようなものをわざわざ造形して、中央座席に物理的に着席できないようにしたバスを登場させた。まさに苦肉の策であると言えよう。
しかし前述したとおり、ノンステップバスの都市型やラッシュ対応型のシートコンフィギュレーションでは、そうでなくても座席数が少ないのに、いざというときのためとはいえ、さらに1席をつぶしてしまえば立席が多くなり、通常時の特に高齢者の車内転倒事故の原因になってしまう。悩ましい問題だった。
■モケットを新素材にする!
そこで登場したのが、最後尾中央座席付近の座面のモケットを根本から変えて、座席をつぶさずに提供するというやり方だ。記者が初めて目撃したのは京成バスで、最初に色が違うことに気が付き、さらに背面に注意書きがあるのに気が付く。
なんと、最後尾中央部3席が滑り止め加工されているというのだ。なるべく他の座席を利用してほしい旨は書かれているが、この座席に着席することを前提にシートが作られていた。
■お尻が前にズレない!
試しに手で触ってみると、後ろ方向へはツルツルでスムーズに手が滑っていくが、前方向には繊維の抵抗が大きくて手がほとんど動かない。つまり、バスの進行方向に対して逆らうように繊維が起毛しているようだった。
停車中に座ってみると、前方向にはお尻が動かない。もちろん極端な急ブレーキで体ごと前に飛び出していくようなエネルギーが加われば、簡単に飛んでいくので事故は免れないだろう。
しかしラフなブレーキ操作程度では足で踏ん張らなくても体が前のめりになることはない。これだけでも通常運行時の事故防止に役に立っているだろう。
日々改善を模索し実行するバス事業者だが、利用低迷や運転士不足に恒常的に悩む中で、下世話な話だが増収とは直接関係のない細かなところに気を配る一端を垣間見たような気がする。
他のアイデアや方法もあるのかもしれないが、こうした取り組みは全国のバス事業者に広がってほしいものである。たかが路線バスのシート、されど安全のためのシートである。
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