■自社開発をやめても商用車を完全にやめられない訳
ただし、小型/普通車を含めて、商用車の取り扱いをやめるわけにはいかない。クルマの販売では、車検/点検/保険など、アフターサービスで得られる利益も多いからだ。商用車の取り扱いを終えると、これらの利益まで逃してしまう。
また、商用車では、ひとつの法人が複数の車両を使うことも多いので、大口の取引先も失うことになる。
そして仮にマツダがボンゴを完全に終了すると、その顧客は、タウンエースやNV200バネットを購入する。必然的にトヨタや日産の販売店と新たな繋がりを持つ。トヨタや日産のセールス活動が活発なら、顧客が営業用に使っているマツダ2まで、ヤリスやノートに乗り替えられる不安が生じる。
従ってメーカーの都合で商用車の開発や生産から撤退するとしても、自社の顧客は、従来通り囲い込んでおきたい。なるべく他社の販売店とは接触してほしくない。そこでOEM車を導入する。
見方を変えると、商用車を廃止してOEM車で穴埋めしないのは、メーカーの販売会社に対する不親切ともいえるだろう。
■軽商用はスズキ/ダイハツが計5社に供給!
商用車のOEM関係が最も綿密に構築されているのは軽商用車だ。スズキ エブリイは、日産NV100クリッパー/マツダスクラムバン/三菱ミニキャブバンとして3社に供給されている。スズキも含めると、乗用車メーカー8社の内、4社が同じクルマを扱う。
ダイハツ ハイゼットは、スバル サンバーバン&トラック/トヨタ ピクシスバン&トラックとして供給され、ダイハツを含めて3社が扱う。
残りはホンダのみだ。今までのホンダは、1990年代のSUVを除くと、他社とほとんどOEM関係を結ばずに軽商用車も自社で開発/生産してきた。それでも最近は状況が厳しく、軽商用バンはN-BOXをベースにしたN-VANに切り替えた。
問題はアクティトラックで、バンに比べると使われ方が過酷だから、モノコックボディによる前輪駆動のN-BOXをベースに開発することはできない。そこで2021年に終了する。
販売店では「アクティトラックは設計も古く(発売は2009年)、安全装備もシンプルだからお客様も減った。軽商用車の売れ筋はN-BOXに移っている」という。確かにアクティトラックの2020年1~7月の届け出台数は、月平均で1355台だ。
N-VANの2732台に比べると約半数だが、乗り替え需要が確実に発生する軽商用車で、1か月当たり1000台売れれば手堅い商品だろう。単純に手放すのは惜しい。
OEMは、ほかのメーカーに商品を供給する方法だから、自社開発/生産の車両を他社のOEMに切り替えると、ユーザーの実質的な選択肢は減ってしまう。
自社開発/生産はなるべく守ってほしいが、やむを得ず終了する場合、OEM車を導入すればユーザーの乗り替えはスムーズだ。新たな車種と販売店を探す面倒を避けられる。
■集約進む商用車界ながら「新顔」も登場
以上のようにOEMが進む商用車の世界は消極的な印象も受けるが、ダイハツでは、2020年6月からグランマックスの取り扱いを開始した。タウンエースやボンゴの姉妹車だが、この2車種を含めて、製造はインドネシアのアストラ・ダイハツ・モーター社が行っている。
つまり「本家」はダイハツで、トヨタとマツダが供給を受ける関係にあるわけだ。ダイハツはトヨタにタウンエースを供給しながら、日本では自社ブランドの販売を行っていなかったが、6月から開始することになった。
グランマックスを国内に導入した理由をダイハツに尋ねると、以下のように返答された。
「ダイハツの商用車ではハイゼットが主力だが、サイズアップを希望するお客様もいる。そこで新たにグランマックスを導入した。ただしトヨタブランドのタウンエースも用意されているので、グランマックスの月販目標は100台に抑えた」
タウンエースの月販目標は1000台(バン:700台/トラック:300台)だから、グランマックスは10%と少ない。
タウンエース/ボンゴ/グランマックスがインドネシア製になるのも、前述の選択と集中に基づく。ただしトヨタの販売店では「タウンエースはインドネシア製だから、納期が安定しない」という声も聞かれた。
商用車の場合、顧客の経営状態が好転した時など、需要の急増によって短期間での納車を求められることも多い。納期が長引くと商品、販売店、メーカーの信頼性を下げてしまうので、今後3つのメーカーが扱うとすれば納期短縮も大切な課題になる。
今の商用車は、このようにOEMをベースにして成り立ち、その背景には乗用車とは異なる切実な事情があるわけだ。
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