北海道留萌市在住の写真家・佐藤圭さんが撮った貴重な動物、風景写真をお届けする週末連載。
第22回は、ニホンイタチです。
美しくしなやかな体を持ち、小動物たちからは天敵と恐れられているイタチの仲間たち。北海道の山でよく見かけられるのはエゾオコジョなんですが、今回、佐藤圭さんが、とても珍しいニホンイタチの撮影に成功しました。
元々北海道には生息していなかったともいわれているニホンイタチですが、20年来、山で観察を続けている圭さんは違う意見をもっているようです。
写真・文/佐藤圭
1時間じっと隠れて待った末に
約20年間、野生動物を撮ってきて、今回初めて稀少なニホンイタチを撮影できました。
これまで何度か目撃はしていましたが、撮影に成功したのは今回が初めてです。とても警戒心が強く、動きも速いので、撮影は難しいんです。感動で胸が熱くなりました。久しぶりの感覚でした。
林を探索中に、遠目にニホンイタチの姿を確認したのですが、僕の気配に気づいてすぐに逃げてしまいました。
でも、根開きした木の根元に入っていくのを確認したので、しばらく待ってみることにしました。雪が積もった根の下は繋がっている可能性もあるので、いるのかいないのかわからない状態でした。
ただただいると信じて待ちます。
1時間以上が過ぎ、もういなくなってしまったかな?と思い、諦めかけた次の瞬間、ニホンイタチが小さな雪の穴から顔を出しました。
イタチの仲間の動きは、エゾオコジョで学習済みだったので、撮影に応用できました。こちらも木の根元に隠れながら、モグラたたきの要領でイタチが潜んでいそうなあちこちの穴を見張るんです。
撮影後、逃げ出したときのスピードは、目で追えないほど速かったです。全身、バネのような動きです。
北海道に生息するイタチの仲間は、ニホンイタチ、エゾオコジョ、キタイイズナ、エゾクロテン、ホンドテン、ミンク、ラッコなどがいます。
ニホンイタチは、エゾオコジョより一回り大きいです。
ニホンイタチは、日本固有種ですが、元来、北海道には生息していなかったと考えられていました。明治時代に船に乗り込んだものが移入したという説や、ネズミを減らす目的で連れて来られたという説があります。
しかし、どれも古い情報なので、真実がわかりません。
僕は、ニホンイタチは移入したのではなく、元々北海道に生息していた可能性もあると思ってます。
明治時代に、しっかりとした生態調査ができたとは考えにくく、小さなニホンイタチが全道に生息域を拡大させたと考えるのは少し難しいような気がしています。
ミンクは、毛皮が流行し各地で養殖されていた個体が、毛皮産業の衰退に伴い、野に放たれて全道に生息しているのは理解できます。
アライグマも、アニメ『あらいぐまラスカル』の影響で、ペットとして飼うことがブームとなったのですが、気性の激しさから飼いにくくなり逃がされたと考えられます。
しかし、ニホンイタチは違います。北海道全域の広範囲に放たれたという記録がありません。
昔の文献に、エゾイタチというものが出てきますが、エゾオコジョのことだという説があります。でも、昔の人がエゾオコジョ、ニホンイタチと区別していたのかも怪しいと思います。
今のようになんでもネットで検索できる時代であれば情報は共有されますが、昔の人には、ニホンイタチもエゾオコジョもイイズナも、エゾイタチだったのではないでしょうか? この説は、僕の個人的な推測にすぎませんが……。
留萌の山奥でニホンイタチを初めて撮影できました。
この人里離れた山の中で懸命に生きているニホンイタチを、よそ者よばわりするのは間違っている気がしてなりません。
さて、この連載は、次週からしばらくお休みをいただいて、より面白い写真をお届けするために充電期間とさせていただきます。7月からまた再スタートしますので、お楽しみに!
佐藤 圭 kei satou
1979年、北海道留萌市生まれ。動物写真家。SLASH写真事務所代表。フランスのアウトドアブランド「MILLET」アドバイザー。
日本一の夕陽と称される留萌市黄金岬の夕陽を撮影するために写真家の道に入る。北海道道北の自然風景と野生動物を中心に撮影を続け、各地で写真展を開催し、企業や雑誌、新聞などに写真を提供している。
2018年、エゾナキウサギの写真「貯食に大忙し」で第35回『日本の自然』写真コンテスト(主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会)で最優秀賞受賞。
ウェブサイト:https://www.keisato-wildlife.com/
Facebook:https://facebook.com/kei.sato.1612
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