北海道留萌市在住の写真家・佐藤圭さんが撮った貴重な動物、風景写真をお届けする週末連載。
第42回は、紅葉に染まる大雪山のエゾナキウサギを紹介します。
夏の間、山の斜面に響き渡る「ピキッ」という甲高い鳴き声で、岳人たちを楽しませてくれたナキウサギ。秋は、まるで早送り映像のような忙しさで、冬支度に励んでします。
写真・文/佐藤圭
秋に集めた食料の量が生存のカギ!
9月に入り、北海道大雪山系の山々が紅葉に染まり始めると、エゾナキウサギたちが忙しく働く姿が見られます。
エゾナキウサギは、日本列島がユーラシア大陸と陸続きだった氷河時代に、北海道にやってきた動物です。冬の厳しい寒さの中で生き抜く術は知っています。
数メートル積もった雪の下、ガレ場といわれる岩がごつごつした斜面の温かい巣の中で、辛抱強く春を待ちます。冬眠はしません。
でも、雪に閉じ込められるため、エサを採りに行くことはできません。雪が積もる前に、雪解けまで生き長らえるための食料を巣に溜め込んでおかなくてはならないんです。
だから、短い秋の間に、ナキウサギたちは懸命に越冬のためのエサを集めるんです。これを貯食行動と言います。
気温が下がってスイッチが入ると、貯食行動は一気に加速します。
そうなると、ナキウサギは、1日中貯食行動をします。貯食する場所も1ヵ所ではなく、岩の下で繋がっている数ヵ所に集めます。
エサとなる草木が生えている場所と岩の下の巣を、日に何百往復もして集めていく様は、気が遠くなるような作業です。撮影しながら、思わず「がんばれ! がんばれ!」と応援してしまいます。
そうやって集めた食料の量が、春までの生存のカギとなります。
観察していると、巣に集めた葉や茎は、腐らないように、上手く空気を入れて干し草にしているんです。ちゃんと保存食にするなんて、賢いですよね。
今年の春に生まれて、独立したばかりの子ナキウサギも、同じように貯食行動をしています。誰に習うわけでもなく備わっている本能なんです。山では、自然の凄さにいつも圧倒されます。
佐藤 圭 kei satou
1979年、北海道留萌市生まれ。動物写真家。SLASH写真事務所代表。MILLETアドバイザー。
日本一の夕陽と称される留萌市黄金岬の夕陽を撮影するために写真家の道に入る。北海道道北の自然風景と野生動物を中心に撮影を続け、各地で写真展を開催し、企業や雑誌、新聞などに写真を提供している。
2018年、エゾナキウサギの写真「貯食に大忙し」で第35回『日本の自然』写真コンテスト(主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会)で最優秀賞受賞。
ウェブサイト:https://www.keisato-wildlife.com/
Facebook:https://facebook.com/kei.sato.1612
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