ロールス・ロイス製の名機「マーリン」
スピットファイアの制式採用は1936年で、零戦よりも4年早い。大戦後は朝鮮戦争(1950-53年)にも投入され、アイルランド空軍では1961年まで運用されている。
四半世紀に渡って使用されたのはひとえに、基礎設計が優れていたことと 、ロールス・ロイス 製 エンジン による。そして、長きに渡って運用されたため、その型式は非常に多い。
仕様が変更される際の一番のポイントは、搭載エンジンの換装だ。初期のスピットファイアでは、ロールス・ロイス製の「マーリン」が搭載された。液冷正立V型12気筒、総排気量27リットルの高回転型エンジンである。
最も初期型のスピットファイアMk.Iは、「マーリンII」を搭載。同エンジンには1段1速過給器を搭載していたが、その出力は1060hp前後だった。
しかし、1941年から生産されたMk.Vには「マーリン40系」や「50系」に換装され、出力が1185~1230hpへ向上。さらにMk.VIの「マーリン47」では1415hpまでパワーアップしている。
続いて、1942年から部隊配備されたMk.Ⅸには「マーリン61」が搭載され、過給器を二段二速に変更したことで最大出力は1700hpオーバーに。ここでやっとドイツの最新鋭戦闘機フォッケウルフFw190と同等以上に戦える状態になった。結果、スピットファイアMk.Ⅸはシリーズのなかで最多機数が製造され、同機における主力型式となっている。
「グリフォン」搭載で出力が2倍へ
こうしたマーリン・エンジンのスペック・アップと並行して、ロールス・ロイス社ではその後継機「グリフォン」の開発も進められていた。マーリンの総排気量が27リッターだったのに対し、グリフォンは36.7リッターにボワアップしている。同じく液冷正立V型12気筒のハイパワーエンジンだ。
同エンジンは1942年10月から部隊配備されたスピットファイアMk.XIIにはじめて搭載され、最大出力1735hpを記録。Mk.X IVには、その一段過給機を二段二速にしたグリフォン60系が搭載され、離昇出力が2035hpまで向上している。
つまり、もっとも初期型の「マーリンII」(1060hp前後)と比較すれば、スピットファイアはロールス・ロイス製エンジンによって、たった6年間で2倍ものパワーを得たことになる。
カリフォルニア州には大戦機のエンジン専用のレストア工房があり、筆者が2012年にそこを訪れた際には、全バラ状態のマーリンを仔細に観察させていただいた。同エンジンを搭載するマスタングがゴロゴロあるアメリカでは、マーリンの需要はいまだ多く、そうした工房はフル回転している。
また、英空軍には第二次大戦を保管・運用するための専門部署がある。それはロンドンから北に60kmほどの「ダックス•フォード飛行場」にあり、コロナ禍でなければ毎年7月に航空ショー「フライング•レジェンド」が開催される。
この航空ショーでは、スピットファイア、シーフューリー、P-51マスタング、アブロ•ランカスターのほか、F4Uコルセア、P-38ライトニング、F8Fベアキャットなどの米国機も実際にフライトする。ここを訪れれば、マーリンとグリフォンの生サウンドを聞き比べることもできるという、夢のようなイベントである。
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