■池田直渡先生の特別講座：合成燃料とはなんぞや？
合成燃料は、主だったものを挙げるだけでも、水素、バイオディーゼル、バイオエタノール、メタノール、バイオマスガス、e-fuelと、多種多様。何がなんだかわからない人が多いのは当然だと思う。
まずは化石燃料を使うことがなぜダメなのかを理解するのが一番早い。このあたりの話は科学全般にわたる話なので、筆者はそれを全部説明するだけの知識と能力を持ち合わせていない。いろいろと単純化した説明になると最初に断っておく。
燃料とは生物由来の有機物である。有機物は炭素原子を含んでいるので燃えるとCO2を出す。
その燃料は大きく分けて2種類ある。どちらも炭素原子を含む有機物だが、ひとつは、地表の生物が呼吸と光合成で循環させているもの。もう一種類が化石燃料で、太古の生物の死骸が地底に埋もれてできたものだ。人間が余計なことをしなければ、このふたつの燃料は地表と地底に永遠に分離されていた。
化石燃料とは、元をただせば太古の植物や植物プランクトンの死骸だが、産業革命を機に、人類は化石燃料のエネルギー利用法を発見し、光や熱や動力として利用し、文明を飛躍的に発展させた。
しかしそれは地下に隔離されていたCO2を地表に呼び戻し、大気中に解き放つ行為でもあった。人類が化石燃料を地表に持ち出したために大気中のCO2が増えた。そして増加したCO2の温室効果によって気候が変動する。これが気候変動問題のメカニズムである。
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■地表にある有機物から燃料を作る
おおよそ30億年前、地球の大気に酸素はほとんどなかった。そこに植物の先祖であるシアノバクテリアが誕生して、光合成を始めたことで酸素（O2）が生み出された。
ざっくり言って、光合成生物は太陽光をエネルギーとして、二酸化炭素（CO2）を内部に固定して有機物を作り、その過程で水を分解した副産物として酸素を吐き出す。こうして大気中に酸素が増えていった。
有機物とは炭素（C）を含む化合物のこと。ただし、Cそのものと一酸化炭素（CO）、および二酸化炭素（CO2）は有機物ではない。別の見方をすれば、有機物は太陽光のエネルギーを溜めた化学エネルギーパックだ。
代表例がごま油やオリーブ油など植物性の油脂である。そしてこの有機物エネルギーを放出し切ったカスがCO2やH2O（水）である。
地上では植物が光合成によって有機物を生み出し、その植物のエネルギーパックを摂取するために草食動物が植物を食べる。草食動物が溜めた有機物を狙って肉食動物が草食動物を食べる。いわゆる食物連鎖とはつまりエネルギーの連鎖でもある。
それが連鎖することなく、どうして化石燃料になったのか？ 植物の細胞壁を作るセルロースは非常に強固で、およそ3億年前までは、枯れた後も分解されることがなく堆積していった。
その結果、植物に溜め込まれた有機物は、地中に埋まり、地下の高圧と高温によって石炭へと変化する。石油の方は同じ仕組みで植物プランクトンが地中に埋まってできる。これが化石燃料の正体である。
しかし、約3億年前に、セルロースを分解する能力を持つ「白色腐朽菌」が誕生したことで流れが変わる。以降、セルロースから解放された植物は、枯れると動物の死骸同様に地表で分解され、化石燃料にならなくなった。
その結果、有機物は地表から大気圏までの巨大な地上の空間内で循環し、だから、O2やCO2は増えることも減ることもなくなった。それが今の大気の組成であり、それゆえに地上の循環連鎖にあるものから燃料を作れば、CO2が増加することはない。
そのメカニズムがわかれば、CO2の増加を防ぐにはどうすればいいかは明瞭である。地下から掘り出した化石燃料の使用を止めて、地表にある有機物から燃料を作ればいい。それがカーボンニュートラルの概念である。
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