サステナブル燃料の地産地消が始まる!? てかサステナブル燃料ってなによ

サステナブル燃料の地産地消が始まる!? てかサステナブル燃料ってなによ

 2025年6月14日、毎年WRCのSSが開催される岐阜県恵那市は「エナ サステナブルモビリティ デイ」を開催。兼松株式会社とサステナブル燃料P1に関する協定を結んだ。WRCでも使われるP1の技術を用い、恵那市内でサステナブル燃料を製造するという。

※本稿は2025年7月のものです
文:ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年8月10日号

【画像ギャラリー】岐阜県恵那市がサステナブルまちおこし!? 合成燃料の地産地消で内燃機関をクリーンに生き残らせる!!(8枚)画像ギャラリー

サステナブル燃料とは? どうやって作る?

P1燃料はメタノールによる合成燃料で、ガソリンスタンドでの給油が可能。レースのほか農機具や公用車など、地方での需要も見込める
P1燃料はメタノールによる合成燃料で、ガソリンスタンドでの給油が可能。レースのほか農機具や公用車など、地方での需要も見込める

 内燃エンジンが生き残るためのカギと言われるのが、燃焼時にCO2を排出しないサステナブル燃料だ。サステナブル燃料は非化石の燃料を指し、大きく分けてバイオ燃料と、グリーン水素とCO2を合成する合成燃料、そしてSAF(航空燃料)がある。

 このうちバイオ燃料は、植物や食品廃棄物、農業廃棄物由来で、食糧作物を使えば食糧価格の高騰を引き起こすデメリットがあり、現在は非食品ベースの原料を使う「第2世代バイオマス」が主流になりつつある。

 そして近年注目されているのが合成燃料だ。合成燃料にもさまざまなものがあるが、恵那市と兼松が考えているのは、グリーン水素とCO2から製造したeメタノールと、第2世代バイオマス由来のメタノールをブレンドしたメタノールの合成燃料だ。

 メタノールとはアルコールの一種で揮発性が高く、エネルギー密度はガソリンよりも低いが、オクタン価が高く、燃焼すると水とCO2が排出される。硫黄酸化物や窒素酸化物の排出は少ないとされる。

 CO2が発生するといっても、メタノールを合成する際、再生エネルギーで作ったグリーン水素と大気中のCO2を合成させるため、化石燃料に比べてCO2を大幅に削減できる。

 現在兼松が扱うサステナブル燃料、P1には3つの特徴がある。

(1)CO2を約80%削減できること、(2)エンジンや車両の調整が不要なドロップイン燃料であること、(3)累計4000台に加え、北極から砂漠まで世界の極地を含む20万kmの走行実績があることだ。

 P1は現在ドイツで製造されており、WRCにも使われている。この技術を生かし、恵那で合成燃料を作ろうというのが協定の内容だ。

 なお、P1フューエルズは破産手続き中だが、技術力は抜きん出ており、支援企業の力を借りて再建中とのこと。兼松との提携にも問題はないという。

小型モジュールを使い「地産地消」を目指す

自民党の「内燃機関活用のための次世代燃料を推進する議員連盟」の会長である古屋圭司衆議院議員が挨拶し期待を述べた
自民党の「内燃機関活用のための次世代燃料を推進する議員連盟」の会長である古屋圭司衆議院議員が挨拶し期待を述べた

 合成燃料を作るとなると、大きなプラントが必要だと思ってしまうが、P1燃料の製造はコンテナ大にモジュール化されたものを使うため、コンパクトなのが特徴。

 「2026年頃から整備を始め、まずはモータースポーツで使ってもらえるようにしたい」と小坂喬峰恵那市長は話す。自らモータースポーツの経験もあり、「子どもたちにエンジン車の持つ楽しさを味わってほしい。それが我々大人の責任」とも話す。

 協定の締結式には自民党の「内燃機関活用のための次世代燃料を推進する議員連盟」会長で、クルマが大好きな古屋圭司氏や、経済産業省自動車課の室長さん、経済産業省資源エネルギー庁の課長さんが出席し、注目度の高さが感じられた。

 古屋議員はいたずらなEV化は産業の空洞化を招くと指摘し、内燃機関がサステナブル燃料によって生き残ることができることを恵那から世界に発信できるチャンスだと話されたが、そのとおりだと思う。余談だが古屋議員とはSTI S210の話で大いに盛り上がった。

 そして経済産業省の方から話を聞くと、国内でサステナブル燃料を製造することはエネルギー安全保障の点でも重要だという。内燃機関を生き残らせるだけでなく、液体燃料のため災害時の復旧の拠点としてガソリンスタンドを活用できるからだ。

 というのも、現在稼働中の約3万カ所のガソリンスタンドのうち、約半数が自家発電設備を持ち、停電時も営業が可能だというから、このガソリンスタンドを今後も維持していくことは、国民にとっても大きなメリットがあるのだ。

 午後からは恵那市民の皆さんを呼んでP1燃料を入れたラリー車の同乗走行デモランが行われ、豪快なドリフト走行に大きな歓声が上がり、盛り上がった。

 ちなみにドライバーに聞いてみると「若干レスポンスがよくなり、少し燃費は落ちるような印象です」とのこと。オクタン価が高くエネルギー密度が低いという影響だろうが、同乗しているぶんには振動や排気音を含めまったくネガは感じなかった。

 ネックになるのはガソリンに比べると10~20倍という価格だが、国内で製造され、消費が拡大すれば価格は圧縮できるはず。内燃エンジンの愛車に乗り続けることができるなら、多少高くてもサステナブル燃料で乗り続けたいというクルマ好きは多いはずだ。

 恵那市がモデルケースになり、全国にサステナブル燃料製造の動きが広がっていくことを期待したい。

次ページは : F1では2026年から100%カーボンニュートラル燃料に

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