日産京都自動車大学校が進めていた「Z復活プロジェクト」。すでにベストカーWebでも幾度かご紹介しているが、ついにレストアが完了してご両親にお返しする日がやってきた。もう涙が止まらんぞ!!!! そんな復活劇、ご覧ください。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】この完成度はプロも舌巻く!!? 復活した「形見のZ」をこの目で見て(32枚)画像ギャラリー水没しても見捨てられなかった「形見のZ」
2018年に西日本を襲った豪雨災害。甚大な被害をもたらした災害だが、そのなかで一台の深紅のフェアレディZも被災した。
それが今回の主役となるフェアレディZだ。このS130型のZはオーナーの山本晃司さんが大切に乗ってきたモデル。しかし晃司さんは通学中にバイク事故に遭い他界してしまう。遺されたご両親は晃司さんが大切にしてきたフェアレディZを形見として守ってきた。
そんな矢先の西日本豪雨。Zは水没してしまった。ベストカーWebが初めてこのクルマに触れたのが2023年。ご両親が最寄りの整備学校であったトヨタの自動車学校に教材として申し入れた。現場の先生方が「オーナーのためにも日産のクルマは日産の魂がある現場で直してあげてほしい」との思いがあり、日産京都自動車大学校に運び込まれレストアが決まった。
最初は泥だらけで、編集担当が実車を見た際には洗浄をされ保管されていた状態だった。ただクルマには「生きたクルマ」と「死んだクルマ」があると編集担当は感じている。
たしかに状態はボロボロだったが、まだクルマとして生き残ろうという雰囲気が感じとれた。それはもしかすると晃司さんのZへの愛情がそうさせたのかもしれない。
学生3代にわたって行われたレストア
そもそもこのZをレストアするのは日産自動車大学校のプロジェクトではあるものの、ご存知のとおり旧車をレストアすることは簡単なモノではない。板金やエンジンオーバーホールなどは整備の過程にあるものの、ハーネスの引き直しなどは通常の整備ではなかなか発生しないケースだから尚更困難を極める。
日産の名車再生クラブの木賀新一さん(現ニスモ総監督)の知見や資料提供なども得ながら、徐々にレストアが進んできた。そんな2年以上に及ぶ取材のなか、編集担当が以前取材した際に学生に言われたことがある。
「このZは僕にとっても特別なんです。だから宣伝というか、なんか”いいことしてますよ”ってアピールするのも違うような気がしてて。魂を込めてクルマを直しているんです」。
ちょっとハッとした。20歳の学生がそこまで真摯にクルマに向き合っているのは意外と言ったら失礼だが、やはりそこにはご両親にご子息の愛車をお戻しするというのが大きなミッションとして学生のなかに存在していたのだ。
「息子が帰ってきたような思い」
3年6カ月にわたるレストアの末、今回は日産京都自動車大学校で山本さんご夫婦へのZの引き渡し式が行われた。式典には現役の学生、そして過去に携わった学生やその保護者などが集まった。
そのなかで山本さんのお母さま、富美枝さんからの挨拶を紹介したい。
「今日は緊張でお手洗いに行ったりそわそわしていました。それくらい緊張していました。息子が帰ってきたようで。本当にありがとうございます。こんなに嬉しい日はありません。
このクルマが西日本豪雨で災害に遭った日を思い出しちゃって。1階の天井まで水が来たんです。すぐにエンジンかかるかなってちょっと淡い期待をしたんです。息子の形見ですから。もちろん水没しているのでね、それは無理な話でしたけど。
夫とも相談して、まずはクルマよりも家を建て直そうと。そしてクルマをと思っていたところにこういうご縁がありました。あんなにドロドロなクルマがね……。担当の井上先生からの報告をもらう度に息子が帰ってきたようで。
神様が与えてくださったチャンスかもしれないですし、息子は大学生で死んでしまいましたが、学生の皆さんには未来がありますから。この思いを大切にしてくれてありがとうございます。息子がまた乗ってくれるかなって思います。本当に感動です。ありがとうございます」。
整備士不足が叫ばれているし、正直なところ日産へのイメージも今はよくないかもしれない。けれど次世代の整備士を担う日産自動車大学校にはこんな素晴らしいプロジェクトがあることにもぜひ注目してほしい。
そして何より、このような奥行きのある経験を学生時代に積んだ整備士が近くのディーラーに勤務しているかもしれない。そんなウキウキも未来の投資としては明るい話題だろう。
クルマは夢を持っている乗り物だ。そしていつまでもその夢を紡げる工業製品でもある。日産の培ってきたヒストリーをしっかりと学生が継いでいく。またこのようなストーリーが生まれる日を楽しみにしたい。
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