■デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)
トヨタが初代プリウスを開発していた1990年代前半、ハイブリッドだけでも80種類にもおよぶ、さまざまなパワートレーンが検討された。
そのなかで、早期にボツとなったノン・ハイブリッド方式のひとつに、直噴希薄燃焼+DCTという組み合わせがあったという。
この話は、プリウス生みの親といわれている内山田竹志さんから聞いたものだが、DCT嫌いのトヨタが90年代に(!)と驚いた記憶がある。
つまり、トヨタは1990年代からDCTの燃費性能(伝達効率のよさ、フリクションの少なさ)には注目していたということ。にもかかわらず、いまだにトヨタはDCTを商品化していないのはなぜだろう?
高価格車に関しては、おそらくドライバビリティの質感、とりわけスムーズさがトヨタ基準では不満なのだと思われる。
DCTの特徴は、よくも悪くもトルクコンバーターを持たないこと。それゆえに、駆動ロスが少なくダイレクトなトルク伝達が可能とされている。
しかし、どれだけスムーズにクラッチをミートしても、オイルという流体を介してトルクを伝達するトルコンにはかなわない。DCTのメリットを認めつつも、発進のスムーズさやシフトショックの少なさをトヨタは重視しているのだ。
低価格車については、コストと燃費性能でDCTよりCVTにメリットありという判断だろう。
クルマ好きはCVTを好まないが、市街地レベルの低速ドライバビリティと燃費ならCVTがおそらくベスト。また、トルコンがあるから渋滞にも強い。
逆に、ファン・トゥ・ドライブ性能や、高い速度域の効率ではDCTにも魅力があるのだが、それを好むお客さんは少数派。トヨタはそこで勝負するつもりはない。
いっとき急激にシェアを伸ばしたDCTが最近頭打ちになっているのを見ると、トヨタの判断は正解だったような気がいたします。
■ディーゼルエンジン
2000年代のはじめに欧州でクリーンディーゼルがブームとなったのは、ドイツ御三家を筆頭に各メーカーから魅力的な新型エンジンがぞくぞく登場したのがきっかけ。たしかに、これら新世代ディーゼルはパワフルで燃費もよく、過去のイメージを一新する魅力があった。
では、何ゆえ欧州勢が一斉にクリーンディーゼル開発に走ったのかといえば、いわゆる“プリウスショック”が原因だったというのが定説だ。
1997年に初代プリウスが登場した時、欧州勢はその燃費性能に脅威を感じたものの、コスト面からハイブリッドが主流になるとは考えなかった。
彼らが燃費削減の主力に選んだのはクリーンディーゼル。これで時間を稼ぎつつ、将来は電動化技術を導入することで、厳しくなる燃費規制をクリアする戦略を選んだわけだ。
ここで、日本勢と欧州勢の行く道がくっきりと別れた。
日本勢はトヨタを中心に電動化戦略に注力し、欧州勢はクリーンディーゼルとダウンサイズターボを主力に据える。当然、開発生産の投資や商品戦略もこの方向で行われたから、これ以降は日本と欧州でパワートレーンの主力がかなり違う方向へ進んで行くこととなった。
結果として、マツダと三菱をのぞき日本車から乗用ディーゼルはほぼ消滅。トヨタも新規開発したのはランクル・プラドなどに搭載される1GD-FTVがほぼ唯一の存在といっていい状況だ。
ただ、GD系ディーゼルは技術的には最新だが、アジアを中心とする新興国市場をカバーするために造られたもので、欧州勢のディーゼルとはやや性格が異なる。
先進国ではディーゼルよりハイブリッド優先。これがトヨタの基本戦略と言えそうですね。
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