ダイハツのセダンと言えば、2023年までトヨタ・カムリのOEM供給を受け販売されていたアルティスを思い出すが、アルティス登場の10年以上前に、ダイハツが独自開発でセダンを作っていたことはあまり知られていないだろう。そのクルマの名はアプローズ。今後は見ることが難しそうな、ダイハツオリジナルセダンの実力を振り返っていこう。
文:佐々木 亘/画像:ダイハツ
【画像ギャラリー】美しき小型5ドアセダン「アプローズ」(6枚)画像ギャラリーライバル車の生産が許されたバブル時代の名品
現在はトヨタの完全子会社となっているダイハツ。親子間ではそれぞれの強みを生かし、開発車両を融通しながら販売を拡大させている。アプローズが登場した1989年には、ダイハツがトヨタの子会社というわけではないが業務提携先。基本的に、ライバル関係になるクルマの開発は行わなかった。
基本的には、ダイハツが小型セダンを開発し販売すれば、カローラとバッティングするため開発を控えていたわけだが、バブル景気真っ盛りの当時は自動車販売もイケイケの状態。ダイハツが「新しいセダンを作りたいのですが」と声をかければ、トヨタは「どうぞどうぞ売れるモノはどんどんお作りくださいな」的な返事だったのだろう。
そんななか生まれたのがアプローズである。「そろそろクルマを見直すときが来た。」というカタログコピーがあらわす通り、小型セダンのニュースタンダードを目指して開発された車両だ。
ボディ全長は4.3mを少し超えるくらい、全幅は1695mm以下に収まっており、ザ・5ナンバーセダンなのだが、エクステリアもインテリアも、どことなく上質な雰囲気を醸し出す。エンジンは1.6Lの4気筒で、ダイハツお得意の軽量コンパクト設計だ。
見た目以上にしっかりと作り込まれたクルマだが、当時の小型セダンは有名モデルが多数あり、ネームバリューで負けてしまったのが販売不振の一つの要因であろう。2000年までの約11年間販売が続けられたが、その間に登録されたのは2万台強。乗っている人を探す方が難しいクルマだったかもしれない。
【画像ギャラリー】美しき小型5ドアセダン「アプローズ」(6枚)画像ギャラリー売れなかったがダイハツの本気は凄かった
アプローズの大きな特徴は、4ドアセダンに見えるシルエットながら5ドアセダンだったということ。なんとリアウィンドウとトランクが一体になって開く「スーパーリッド」を備えていた。今で言うプリウスのようなバックドアの作りなのである。
さらに特筆すべきはリアシート。独立して倒せるのはもちろんのこと、リクライニングもできるのだ。さらに当時としては珍しい、リアに3点式のシートベルトを備えるのもエライ。
また上位グレードのオプションにはなるが、アクセルから足を離したままで定速走行ができるオートドライブを備えているのも意外な魅力。ディーラーオプションではワイヤレスキーシステムやカーテレビまで用意した。上質に真面目に作り上げているクルマに、意外な先進性まで与えているのだ。
面白味があって実用性の高いセダンを作り上げたダイハツ。アプローズに詰め込まれたアイディアは、今のクルマに採用されているものも多く、ダイハツの底力を感じる一台となっている。
軽自動車だけでなく、モデルチェンジの止まってしまったカローラアクシオの新型をダイハツに任せてみても面白いのではないかと思えてくるほど、アプローズの仕上がりは良い。意外と今、小型セダンを作らせてみたら、ダイハツが良いクルマを作るかもしれない。
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