フィット・ステップワゴン・フリードなどを抑えて、すっかりホンダの顔となったN-BOX。この爆売れ軽が生まれた背景には、ホンダのクルマに対する強い思いがあった。ホンダが挑戦した、日本のためのクルマづくりを振り返っていく。
文:佐々木 亘/画像:ホンダ
【画像ギャラリー】初代から現行までのN-BOXを振り返っていこうぜ(14枚)画像ギャラリークルマをもう一度やり直したい
N-BOXが販売されたのは2011年12月。今や立派なロングランモデルとなった。執筆時(2025年2月)現在では3代目モデルまで進化し、軽自動車のイメージが強いダイハツ・スズキの軽トールワゴンを敵にもしない、圧倒的な人気を誇っている。
‘‘NEW NEXT NIPPON NORIMONO’‘というインパクトのあるCMと共にデビューした初代N-BOX。開発に込められた想いは、「軽自動車を、そして、クルマをもう一度やり直したい」というものだ。
人・街・生活をトコトン見つめ、誰もが使いやすい‘‘のりもの’‘を作りたい。それが毎日を変え、乗る人の生き方さえも変えていくとホンダは信じていた。まずは圧倒的な広さを、日本に届ける。それが、N-BOXに与えられた使命である。
大事にしたのは「人の空間」
大きさに決まりのある軽自動車で、広い空間を作るということは大変なことだ。ボディを大きく出来る登録車と違い、規格の決まった軽自動車では上限となる室内の広さはある程度決まってくる。
それでも、「メカは小さく、人のための空間は大きく」という、ホンダがクルマづくりで絶えず志してきた理想を、N-BOXに結晶させた。
クルマを1ミリでも広くするための課題は2つある。それは場所をとるエンジンルームと燃料タンクを何とかすることだ。エンジンルームはコンパクト化を徹底して突き詰めるために、専用エンジンやCVTを開発した。
エンジン回りの部品も小型化して、レイアウトも工夫している。ボディ構造も一新し、これまでにない極めて小さなエンジンルームを完成させている。
もう一つの課題となる燃料タンクは、フィットに搭載したホンダのお家芸とも言える「センタータンクレイアウト」を軽自動車用にブラッシュアップして使用した。デッドスペースだった前席下の空間へ燃料タンクを収めることで、後席から後ろの段差が大幅に減り、使える空間が劇的に拡大している。
人を中心に考えるホンダだからこその発想が、N-BOXの中にはたくさん詰め込まれているのだ。
軽自動車のネガは全部消すのがホンダ流
N-BOXはセカンドカーではなく、あくまでファーストカーとして使われることにこだわった。「軽だから~」という言い訳はせずに、クルマとして必要な性能には妥協していない。
例えば乗り心地。毎日乗る・遠出もする軽自動車だからこそ、シートの厚みやサイズ、肌触りにこだわり、姿勢が安定して疲れにくいように、適度に沈み込む柔らかさも追及している。
荷物の積み下ろしを楽にするために、ラゲッジ床の高さは地上から48cmの高さに設定。逆に天井は室内高140cmと高くしている。
力仕事の際に人がクルマへ入り込めれば楽になる、子供が車内で立ち上がって着替えられれば楽になるという、人がラクするためのクルマづくりがN-BOXで実現されているのだ。
また、燃費を良くしながらもストレスのない出足や加速、登坂能力を持ったエンジンにすることもN-BOXの使命。燃費がよくても走らない軽では意味が無いのだ。
軽自動車でもエンジンのホンダは健在で、レースで鍛えた技術も投入したDOHCエンジンの採用は、ホンダの軽として約半世紀ぶりのことだった。
日本の自動車メーカーが本気を出して開発したクルマは、ほぼ必ず売れる。N-BOXにはそれだけの手間と時間がかかっていることを強く感じるのだ。ただ、ホンダの底力はこんなものではないだろう。これからも実直なクルマづくりがホンダを支え続けていく。
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